東日本大震災から10年、僧侶は人々の話を聴き続けてきた

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震災の犠牲者が憑依した人々を救う

   本書の白眉は、傾聴活動で出会った人たちを通じての死者との対話、震災の犠牲者との対話が詳しく書かれている箇所だ。約1年、24人ほどの物語から主なものが記されている。

   「娘を迎えに行かなくちゃ」という父親が娘に憑依したケースが痛ましい。「おれは死んでいるのか? 津波で死んだのか? 何人死んだ?」「二万人近く死んだ」(金田さん)

   「そんなに死んだのか!」。こんなやりとりが2時間近く続き、「光を想え!」と最後に金田さんが語りかけた。儀式が終わり、焼香をした瞬間、彼女の憑依は解けたという。「このような状況で逝ってしまった人が、たくさんいたことを想う」と書いている。

   幽霊とか死者との対話を「非科学的」と退ける人もいるだろう。しかし、金田さんはこう説明する。

「私たちの風土が危機的な状況になった時、常識では理解できないような、さまざまな出来事が起きる。あらゆる宗教的感情が、まるでパンドラの箱を開けたように飛び出してくるのだ。そして今まで隠されていた人間の感知能力が高まってくる」

   臨床宗教師研修の際に、金田さんが作った臨床宗教師18か条を渡しているそうだ。なかなか素敵な文言が並んでいるので、いくつか抜粋しよう。

・他者が語る物語に虚心に耳を傾けられる人
・自分自身で現場を見つけられる人
・悲しみを引き寄せる力をもっている人
・限りなく人間という存在が愛おしい人

   本書には肉親を失ったさまざまな人の物語が登場する。そして最後は「フクシマ」から突き付けられた問いに、向き合い続けなければならない、と結んでいる。その問いを背負いながら、生と死のはざまを歩き続けるのが私たちの責務なのだ、と。

「東日本大震災 3.11 生と死のはざまで」
金田諦應著
春秋社
1800円(税別)

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