新型コロナウイルスによる感染拡大が長期化する中で登場したな新たな生活様式、「ニューノーマル(新常態)」は、人々にそれ以前には戻れない、いわば不可逆的な変化への覚悟を促しているのかもしれない。
個人にとっても企業にとっても、ニューノーマルの時代をいかに生き抜くかが関心事になっている。
本書「オペレーショントランスフォーメーション ニューノーマル 『変革』する経営戦略」は、企業トップらにニューノーマルに適した経営戦略の立て方・進め方を示した一冊。外資系コンサルティングファームで企業の変革を支援してきた著者が、「コスト構造」「人材」「意思決定」の3つの側面から企業経営を抜本的に変える、プロならではの手法を解説している。
「オペレーショントランスフォーメーション ニューノーマル 『変革』する経営戦略」(高砂哲男著) 日本実業出版社
コストを価値ベースで把握できていない
著者の高砂哲男さんは、大手コンサルティング会社、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社の執行役員。グローバル企業の同社で「オペレーショントランスフォーメーション」の日本リーダーを務め、時代に応じた企業と人材の変革を、戦略策定から仕組み作り・実行まで、すべてをカバーする形で支援している。
コロナ禍をきっかけに迎えたニューノーマル時代。「オペレーショントランスフォーメーション」の専門家である著者は、企業活動を元に戻すことももちろん大切だと考えているが、新たに登場したことが「常態」となるなかでは、元に戻すことより、企業を変えていくことを優先すべきという。
経営トップが「戦略」を変えるべきものとして、重要なものが3つあり、その3つが「コスト構造」「人材」「意思決定」だ。
たとえば、コスト構造を変えるためにはまず、「経営トップのマインドを抜本的に転換する必要」を著者は指摘する。「コスト構造を支出(費用)の側面からではなく『利用・価値』の側面から考える」ことが提案されている。
「わかりやすい例」として、次のように述べられている。
「たとえば、同じ種類の備品(たとえばパソコン)でも、価格が10万円の備品Aと20万円の備品Bがあります。支出の側面からみると、備品Aを多く購入するほうがトータルのコストを抑えることができるため、コスト構造上はメリットがあると、誰の目にも映るでしょう。
ところが、ここに落とし穴があるのです。10万円で買った備品Aは何かの理由で会社の倉庫に眠ったままであり、20万円で買った備品Bはさまざまなところで使われているとすれば、価値の側面から見れば備品Bを多く保有しているほうが、明らかにメリットがあると考えられます」
この場合、会社の中で可視化されているのは、備品A、Bの支払い情報のみ。利用や価値に関する情報は可視化されていないことになる。利用は価値という認識の欠如は、会計上の「資産」として計上されるものの、支払いについても同じ。資産は、支払い金額をベースに取得金額が計上され、保有している間は取得金額をもとに会計処理される。
つまり、企業におけるコスト構造は、すべて支出・支払いベースでとらえられており、価値ベースで把握できていないのだ。