新型コロナウイルスの感染拡大はまだまだ終息をみせない。そんななか、
「コロナvs. AI 最新テクノロジーで感染症に挑む」では、「打倒コロナ」にAI(人工知能)が医療をはじめさまざまな分野で導入されていることを紹介している。
最新テクノロジーを駆使したコロナとの戦いに、勇気や希望を持たせてくれる一冊。
「コロナvs. AI 最新テクノロジーで感染症に挑む」(石井大輔、河野健一、小西功記、清水祐一郎著)翔泳社
次世代型ワクチンで創薬AI
コロナ禍でAIは、ウエアラブルデバイスを利用した患者の見守りや、肺炎の画像診断、重症化の予測など医療機器から、創薬やワクチン開発を効率化する取り組みなど、医療の分野で幅広く用いられている。
次世代型ワクチンとして期待を集めているものに抗体誘導ペプチドがあるが、これは大阪大学とバイオベンチャーであるアンジェス株式会社(大阪府茨木市)が共同で開発を行っている。この開発プロジェクトに、新たにAI活用コンサルティングを行うフューチャー株式会社(東京都品川区)が参加。同社の持つAI技術によって、抗体を作るためにどのようなワクチンであればよいか、効率的に探索することができるという。
すでに欧米各国などで接種が始まっているワクチンは外国製で、AIを用いて創薬を効率化する取り組みがはじまっているが、日本でも、この次世代型ワクチンをめぐる動きのほか、創薬AIの取り組みが進められている。
本書で紹介されているのは、独自開発したAIで情報解析の支援事業を行っている株式会社 FRONTEO(フロンテオ、東京都港区)。同社は2003年の創業当時は、法律領域の文書解析を実施する、いわゆるリーガルテックとしてAIの開発を行っていた。それにより得られた文書解析の知見を生かし医療文書の解析にも進出。新型コロナウイルスに関する論文を解析し、治療を行ううえで重要と考えられる遺伝子や分子を特定している。
そして特定した遺伝子や分子について、関連する論文をさらに解析。それらの遺伝子や分子に有効に作用する可能性がある既存薬を特定し、作業を進めて、2020年5月には新型コロナウイルスに有効と考えられる450種類を抽出したと報告した。
コロナ禍のアマゾンでいち早く導入
コロナ禍で進んだAIの「社会実装」は、医療関係ばかりではない。感染拡大を防止するためにAIを利用する取り組みもさまざまに行われている。
感染拡大防止策として社会に広く浸透したことの一つにソーシャルディスタンスがある。人と人との距離を2メートル程度開けることを推奨する。そこで、このソーシャルディスタンスが適切に取られているかをチェックするAIが開発された。
企業の代表的な導入例はアマゾンだ。物流センターでソーシャルディスタンスが確保されているかどうか、チェックするためだ。コロナ禍の自粛生活でECを使った物品購入が増え、アマゾンの注文量が増加。それにより業務が増えた物流センターの従業員の健康のため、ソーシャルディスタンスの維持に努める必要があった。
アマゾンでは、防犯カメラの画像をAI解析することで、従業員間の距離が近くなった場合に警告を発するシステムを開発。2020年3月から運用を開始した。このシステムでは密集を検知することができ、カメラの映像のなかに15人以上映ると警告を発するようになっている。
コロナ禍のなか、AIを使った密集検知のシステムはこのあとさまざまなソリューションが開発され、感染拡大防止に貢献。人が集まる場所はほかに、AIシステムを使った店舗や施設の混雑状況の配信サービス、検温とそのデータ管理、またマスク着用・非着用をAIで検知する装置も実現している。
台湾デジタル大臣オードリー・タン氏インタビュー
本書ではさまざまな事例紹介に加えて、デジタルの力で新型コロナウイルスの封じ込めに成功したとされる台湾の、その推進役であるデジタル担当大臣、オードリー・タン(唐鳳)氏のインタビューを特別付録として掲載している。
タン氏は、米外交政策専門誌「フォーリンポリシー」で「世界の頭脳100人」に選ばれた一人。新型コロナに対抗するため、台湾で数々のデジタル施策を実施。デジタル化された保険制度のなかで行政が健康保険カードを使ったマスク配給制度をつくり、初期の感染抑え込みに効果を発揮したことなどが知られる。
タン氏は本書のインタビューで、新型コロナウイルス対デジタルの視点で「サイエンスシンキングの重要性」などについて語っており、これから日本でますます進むとみられるテクノロジーを使ったコロナ対策の参考になるはずだ。
「コロナvs. AI 最新テクノロジーで感染症に挑む」
石井大輔、河野健一、小西功記、清水祐一郎著
翔泳社
税別1600円