コロナ禍で、テレワークやオンラインで仕事をする企業が増えてきたこともあり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が、注目されています。
政府もDXを推進するために足かせになってきた「制約」を排除する動きが出始めているといわれていますし、コロナ禍でDXの広がりに加速度がついているようです。
いよいよ身近になってきたDXですが、いま一つはっきりわからない。スッキリしない......。そんな人は少なくないようです。ITジャーナリストの久原健司さんに、いろいろと聞いてみました。
DXを推進すればGDPを130兆円押し上げ
◆ なぜ今、DXが注目されているのでしょうか?
経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」によると、今のままでは「IT人材の不足」と「古い基幹システム」という2つの障壁が立ちはだかり、2025年から2030年までに、年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとされていました。
しかし、DXを推進することができれば、2030年の実質GDP(国内総生産=725兆円。従来予測は593兆円)において、130兆円超の押上げを期待できるとされているのです。こうした状況から、日本でDXへの注目が集まっているわけです。
◆ そもそもDXとはどういう意味なのでしょう?
「DX」は、デジタル トランスフォーメーションの略称です。多くの方は、「IT化されていないところに対して、積極的にデジタルテクノロジーを取り入れてIT化を進めること」とイメージしているのではないでしょうか。
しかし、実際は単純にIT(情報技術)化するということではなく、「企業がビジネス、商品・サービス、文化、風土、人材の起用方法など、あらゆる要素を変革するためのデジタル活用」ということになります。
デジタル トランスフォーメーションは、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した言葉で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ことと定義されました。
この時はまだ、「デジタルが大衆の生活を変える」程度の概念でした。その後、スマホがどんどん普及していくのに並行して、IT市場におけるクラウドコンピューティングの台頭、ビッグデータを処理できる環境が整ったことによるデータ分析ニーズの増加、AI(人工知能)及びIoT(モノのインターネット)技術の発展による業務自動化や効率化、そしてビジネスモデルの変革など、数多くのデジタルテクノロジーが企業を改革するうえで重要度を増していくことになり、現在ではビジネスの中心として存在しています。
こうした状況によって「デジタルが大衆の生活を変える」程度の概念しかなかったデジタル トランスフォーメーションが、注目を浴びるようになっているのです。
米アマゾンの倉庫は商品を探しにくい?
◆ 日本ではDXを、どのように定義しているのでしょうか?
経済産業省はデジタル トランスフォーメーションを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
参考リンク:経済産業省「デジタル トランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver1.0」
この定義からもわかると思いますが、単純にIT化するだけではないのです。要するに、IT化するのはもちろんですが、データとデジタル技術を活用して競争上の優位性を確立することの意味を含んでいることになります。
もっとわかりやすく説明するために、ECサービスを運営するテクノロジー企業の米Amazonの例をみてみましょう。
一般に、倉庫に荷物を入れる場合、荷物を探しやすいように似た商品を近くに保管します。しかし、Amazonではまったく関連性のない商品が隣にあるということが当然のようになされています。
理由は、たくさんの種類の商品を、ムダなスペースを作ることなく合理的に格納することができるからです。これはフリーロケーションという在庫の保管方法です。
なぜ、このような保管方法ができるかというと、商品を認識するコードと位置情報をデータ化して管理しているからです。商品を探す場合、商品の位置情報はデータ化し記憶されているので、探すのも簡単なのです。
さまざまな部分でこのようなDXを実現させていくことで、Amazonは競争上の優位性を確立し、世界でも有数な企業へと発展できたというわけです。
では、DXを進めると、企業がどのように変わるのか――。次回はDXを進めるメリットをお話したいと思います。