緊急事態宣言が2021年2月7日に延長されてから2週間。新型コロナウイルスの新規感染者数はかなり減ってきたが、ここにきて減少傾向に「下げ止まり」がみられるという。
そもそも、この急速な減少傾向、
「東京五輪を見越して検査数を減らしているためでは」
と、疑問視する人も多い。
いったいどうなっているのか。はたして、緊急事態宣言は予定どおり解除できるのだろうか――。
東京、神奈川、大阪... 8都府県にリバウンドの前兆
2度目の緊急事態宣言が延長された10都府県の感染者数の減少ペースが鈍化しているばかりか、リバウンドとみられる動きさえ見せていると報じるのは、産経新聞(2月20日付)「緊急事態宣言の8府県 感染者減少ペースが鈍化」という見出しの記事だ。
「緊急事態宣言が延長された10都府県のうち、愛知と岐阜を除く8都府県で、直近1週間と前週1週間の新規感染者数を比較した『前週比』が上昇していることが、厚生労働省が2月19日に公表したデータでわかった。新規感染者数は減少傾向ではあるが、減少ペースが鈍化していることがうかがえた」
具体的には、次のような状態だ。
「人口10万人当たりの新規感染者数は、10都府県すべてで減少。しかし、新規感染者の前週比(前の週の同じ曜日の数を比較)を見ると、愛知と岐阜は下降している一方、埼玉、千葉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫、福岡の8都府県で上昇。このうち東京と福岡を除く6府県は前週発表のデータでは下降が確認されていたが、上昇に転じた。宣言の対象地域外でも、新規感染者数が26道県で減少したが、前週比では20道県で上昇した」
というのだ。
東京都だけの数字をみると、どうなるのか。毎日新聞(2月19日付)「感染者減少が鈍化、宣言解除できるのか」が、こう伝える。
「新型コロナの感染者数が下げ止まりつつある。東京都の感染者は1月20日以来、前週同日比で連続して減少していたが、18日は445人と前の週より11人増え、19日も353人で同46人増えた。18日に開かれた厚生労働省に感染症対策を助言する専門家組織(座長=脇田隆字・国立感染症研究所長)は、緊急事態宣言が出ている10都府県で夜間に再び人が集まる傾向が出ている地域もあり、『感染者の減少スピードが鈍化している可能性がある』と分析した。東京・歌舞伎町や横浜駅、千葉駅などで夜間の人出が再び上昇している」
朝日新聞(2月22日付)「東京都感染者数下げ止まり傾向」も同様の数字をあげて、こう報じる。
「東京都は新規感染者数(1週間平均)を前週比7割に抑える目標を掲げるが、ここ数日で前週比は9割近くで減少幅が鈍化。行動範囲が広い若者の感染も目立ち始め、再び増加に転じないか懸念する声も出ている。小池百合子知事は『予断を許さない状況で、感染者数がリバウンドする可能性もある。ここで気を抜かず、感染防止対策を怠らないでほしい』と定例会見で危機感を示した」
気になるのは山梨、ブラジル型変異株が拡散?
東京都の小池百合子知事は緊急事態宣言を3月7日まで延長した際、前週比が7割以下になれば、3月初旬には1日の新規感染者が140人以下まで減らせるとの見通しを示していた。
ところが、先週(2月15日以降)から減少幅が鈍化し始めた。週平均の感染者数が355.1人だった18日時点の前週比は76.3%、翌19日が84.7%、20日は91.6%と9割超に急上昇。21日は89.9%に下がったが、それでも都が目標とする7割を大きく超える。
東京都モニタリング会議の代表、都医師会の猪口正孝副会長は記者会見で、
「検査数が前週の7871人から6859人に減った。戦略的な検査になっていない。積極的な検査が、再上昇を防ぐ有効な作戦だ」
と訴えたのだった。
こうした事態に、専門家はどうみているのか。産経新聞(2月20日付)の取材に応じた濱田篤郎・東京医科大学教授は、こう指摘している。
「人口10万人あたりの新規感染者数は減少傾向にある。ただ、新規感染者の前週比を見ると、緊急事態宣言中の8都府県で上がっており、減少の動きが下げ止まっている。全入院者の病床使用率は東京や大阪などでステージ3に改善され、逼迫が解消されつつある。この流れを保つためにも、国民の感染対策徹底の踏ん張りが重要だ。気になるのは、山梨の感染経路不明の割合が58.8%と依然として高い点だ。ブラジル型変異株も確認されている地域なので、警戒を強めたい。総合的に見て、緊急事態宣言の解除は難しいだろう。第3波の完全な沈静化が目下の目標となる」
また、テレビ朝日(2月19日付)の取材に応じた松本哲哉・国際医療福祉大学教授はこう語った。
「かなり感染者数が減り、安心感が漂って人の出方が増えたことが(下げ止まりの)数値に出ている。まだまだ医療現場は厳しい状況にある。多くの専門家の共通した意見は、(東京都で)1日の感染者数100人ほど状態が1か月継続して出せれば、良いところまで持っていける。今のままではなかなか減らない。感染リスクが高い地域・集団に対して積極的に検査を広げて、感染者をもっと拾い上げる対策が必要になってくる。ワクチンがあれば感染が減っていく訳ではなく、さらなる増加がいつでも起こり得るという危機感を持っていたほうがいい」
保健所の負担減のため「積極的疫学調査」を縮小
「積極的な検査」と言えば、東京都モニタリング会議の猪口正孝・都医師会副会長も「戦略的な検査」が必要だと言及していた。じつは東京都は1月22日、第3波の猛威によって医療体制の逼迫化したことに伴い、保健所の負担を減らすために感染経路を追跡する「積極的疫学調査」を縮小・簡略化した。対象者を高齢者など重症化リスクのある感染者に絞ったのだ。
具体的には、調査対象を高齢者など重症化リスクのある感染者に絞り、医療機関や高齢者施設の関係者に限定したのだ。それまでは感染者の家族まで「濃厚接触者」として検査していたのに対象外とした。そして、誰が濃厚接触者に当たるかの判断は感染者本人や企業、学校などに任せることにした。ちょうど、新規感染者が急速に減少傾向に転じた時期と重なったため、インターネットなどでは、
「東京五輪を前に、コロナが収束しつつあるというと印象を与えるためでは」
という批判の声が根強くある。
これは本当なのだろうか――。東京新聞が2月7日付の「東京の感染者急減は『積極的疫学調査』が減ったから?」が、この「都市伝説」のような疑問に迫っている。
「東京都の新規感染者数が大きく減ったのは、感染経路や濃厚接触者を追跡して調べる『積極的疫学調査』の規模を縮小したからでは? インターネット上などで疑問が上がっている。現状を追った。保健所の業務逼迫を受け、都が追跡調査の対象をリスクの高い人や集団感染の恐れがあるケースに重点化するよう通知したのは1月22日。連日1200人以上だった都内の新規感染者数は直後から1000人を割り込み、(10日後の)2月1日には2か月ぶりに400人を下回るなど減少傾向が続いている。追跡調査を縮小したため、これまで追えていた軽症者や無症状者を見逃しているのでは...。疑問は主にこうした見方に基づいている」
東京新聞の取材に、「データを見る限りそれはない」と、都のモニタリング会議メンバーを務める国立国際医療研究センターの大曲貴夫医師は否定したのだった。
「根拠の一つは、感染経路不明者の割合だ。追跡調査を縮小すれば、全体の感染者に占める不明者の割合は上がるはず。縮小通知の前後で不明者の割合は62.9%から51.3%とむしろ減少している(2月5日現在)。もう一点は、無症状者の数だ。追跡調査によって確認した感染者は、自覚症状のない人が多い。調査縮小の影響が出ているなら、無症状の割合は下がる。だが感染者に占める無症状者の割合を通知前後で比べると、18.9%から23.5%(同)に上昇している」
(福田和郎)