東京五輪・パラリンピック組織委員会は2021年2月17日、女性差別発言で引責辞任した森喜朗前会長(83)の後任候補を選考する検討委員会を開き、橋本聖子・五輪担当大臣(56)に一本化した。18日の評議委員会・理事会で正式決定する。
検討委員会では会長(組織委の御手洗冨士夫名誉会長)だけの名前を公表。残り7人の委員を非公開とし、会議の日時・場所すら秘密にした「密室人事」だ。橋本聖子氏の「内定」も箝口令が敷かれている。
組織委といえば、運営費を莫大な税金で賄っている公的組織だ。
「民間会社でも引責辞任した社長の後任は、社外取締役らで指名委員会をつくりオープンに選ぶ。こんな密室人事は国際社会には通用しない。また、日本の恥を世界に広めた」
という批判がメディアから起こっている。
組織委の「株主」である国民は東京五輪へ共感を寄せることができるのだろうか。
「透明性をうたうなら複数候補で公開討論を」
「候補者たちの公開討論」は、朝日新聞も訴えた。2月14日付のコラム「視点:透明性うたうなら複数候補で公開討論を」で、こう書いた。
「『透明性の高いプロセス』をうたうのであれば、候補者検討委が複数の候補者を挙げたうえで、『公開討論会』をオンラインなどで開き、見識を世に問えばいい。討論会での発言や、発言に対する社会からの反応が、理事の判断に一助になればいい。『女性だから』『アスリートだから』という固定観念でくくらず、会長にふさわしい能力をもった人を選ぶべきだ。それができて、今後のスポーツ界に浸透するのであれば、今回の問題も意味がある」
今回の後任選考の不透明なプロセス、一般会社からみればどううつるのだろうか。2月17日放送のテレビ朝日の情報番組「モーニングショー」で、コメンテーターの浜田敬子さん(ビジネス・インサイダー編集長)はこう指摘した。
「社長が不祥事を起こして辞めた企業で、後任社長を誰にするかを決めるときは、(社外取締役などが)指名委員会を発足させ、最低限メンバーの名前を明らかにします。五輪組織委員会は税金で運営されており、民間企業以上にパブリックが求められる存在です。誰が何をして、どう決めているのかというプロセスや、議事録を公開するべきです」
浜田さんは直接言及しなかったが、巨大企業の引責辞任のケースでは、2016年に東芝の室町正志社長が、2019年に日産自動車の西川広人社長が退陣に追い込まれた際は、社外取締役が中心になって退陣を主導し、第三者の指名委員会をつくり、後任候補を一切メンバーに入れずに後任を選んだ。
ちなみに議事録については、五輪組織委の武藤敏郎事務総長は記者団から、
「検討委員会の議事録はいつ、どのように公開するのか?」
と聞かれて、こう答えるありさまだった。
「決めていません。ただ、議事録とか、そういう話を公開するのは結局プライバシーに関わりますよね。私は大げさに言えば人権問題に関わりかねないと思います」
と言うから、公開する気はなさそうだ。
記者も「男泣きの密室人事」に舞い上がったと反省の声
ところで、今回の五輪組織委の「密室人事」、報道界にも反省の声があがっている。日本経済新聞(2月17日)のコラム「スポーツの力:森会長後任選び『共感』課題」の中で、北川和徳編集委員が「川淵密室人事」に浮かれてしまった自分を、こう後悔しているのだ。
「川淵三郎氏の人事が白紙に戻ったドタバタ騒ぎでは、報道する側の責任も痛感している。川淵氏が森氏からの会長就任の要請を受け入れることを明らかにした時、まるで疑問を持たなかった。84歳という年齢を別にすれば適任だと歓迎していた。だが、手順を踏んでいなかった。人脈や根回しで物事を決める森氏の手法を批判してきたのに、それを象徴するやり方である。それをすぐに指摘できなかったのが恥ずかしい」
「川淵氏は殺到した記者に問われるままに、その経緯や心情を説明したにすぎない。その内容が詳しすぎた。普段ではなかなか分からない密室内のやりとりが早々に赤裸々となり、報道する側がそれに舞い上がって先走ってしまった。白紙に戻るのは当然だ」
たしかに、メディアの多くが「川淵氏、人生最後の大役」「森氏の男泣きに感動」と称賛したのだった。そして、北川和徳記者はこう結ぶのだった。
「(秘密主義で)検討委の会議は非公開。理事会には会長候補1人が提案され、そこで覆ることはまずない。その後、世論が受け入れやすい、細部を省略した説明があるだろう。それで国民が納得すると思っているのか。こうして、五輪・パラリンピックからみんなの気持ちははなれていく」
さて、今回の次期会長選び、最終的に橋本聖子・五輪担当相に一本化される見通しだが、すんなりいくだろうか。スポーツニッポン(2月17日付)「組織委会長後任17日にも内定 橋本氏、小谷氏、山下氏『背後の思惑』絡む一長一短3候補」で、橋本聖子氏の「問題点」をこう指摘する。
「スポニチ本紙の取材によると、菅義偉首相と組織委の間でほぼ一本化された橋本氏は、この日(2月12日)までに『正式に依頼が来てもお断りしたい』と周囲に明かしている。理由は懐事情と過去のセクハラ騒動(編集部注:2014年ソチ冬季五輪閉会式後の打ち上げパーティーで、選手団長だった橋本氏がフィギュア男子の高橋大輔選手に抱きつきキスをしたというもの)」
このセクハラ騒動を海外メディアに蒸し返されることを恐れているという。
「だが菅首相は、後継に求める3つの資質『若さ』『女性』『元アスリート』を併せ持つ存在として一貫して推している。検討委で選ばれれば『五輪相の立場として断れるわけがないし、(懐事情についても)会長に就任するため議員辞職した際の将来的なケアについても十分な保証を考えている』(与党関係者)とされる」
橋本聖子氏は、退路を断たれてしまったようだ。
(福田和郎)