「そうだったのか」が満載! 思想家と写真家が語るショッピングモール

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   コロナ禍の緊急事態宣言で遠出を控えるようになった結果、近場のショッピングモールに出掛ける機会が増えたという人は多いのではないだろうか。子どものいる家庭ならなおさら。休日になると、「今日どこ行こうか?」「イオン!(イトーヨーカ堂系のアリオでもどこでもいいのだが)」というような会話が親子で交わされている光景が目に浮かぶ。

   親世代と子ども世代の欲求、興味の最大公約数が、イオンモールに代表されるショッピングモールであると言っても差し支えないだろう。

   ショッピングモールといえば「大衆消費」の象徴であり、地元商店街が「善」であり、大規模商業施設は「悪」であるという議論が、日本では半ば自明とされてきた。政府も長年、大店法(大規模小売店舗法=2000年廃止)で規制の網をかけてきた。本書「ショッピングモールから考える」は、そもそも人はショッピングモールになにを求めているのか、という素朴な疑問から書かれた本である。

「ショッピングモールから考える」(東浩紀・大山顕著)幻冬舎
  • 買い物だけじゃない? ショッピングモールはもっと楽しい!
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モールが理想の街になっている

   著者は作家・思想家の東浩紀さんと写真家・ライターの大山顕さん。二人の対談形式で書かれている。東さんが関わった言論誌「思想地図β」の創刊号がショッピングモール特集だった。「ショッピングモールの顕在化は、21世紀の社会思想を構想するうえできわめて重要なヒントを与えてくれる」という持論があったという。

   大山さんは松下電器産業(現・パナソニック)のシンクタンク部門に10年間勤務後、独立してフリーに。「工場萌え」(東京書籍)、「ジャンクション」(メディアファクトリー)などの著書があり、「工場萌え」「土木萌え」の火付け役として知られる。

   二人は社会学者でもマーケッターでもない。だから、本書はショッピングモールの研究書ではない。タイトルに「ショッピングモールから」とあるように、ショッピングモールという光景を出発点として、現代社会を考えようという趣旨の本である。

   とはいえ、堅苦しさとは無縁だ。二人とも無類のモール好き。「結局、モールが理想の街を事実上つくっちゃってるよね」と、意気投合したのが対談のきっかけだったという。

   日本のみならず、世界各地のモールを取り上げている。東さんは海外に行くとたいていモールを回るそうだ。本書で紹介しているのがシンガポールのヴィヴォシティ、ドバイのドバイ・モール、アメリカ・ミネアポリスのモール・オブ・アメリカの3つだ。独自性がありながらも世界中のモールが同じ文法でつくられている、と指摘している。だから、「フロアマップを見なくてもどこになにがあるのかが直感的にわかる」。

「ショッピングモール・イスラム起源説」

   大山さんは写真家の立場から、モールは外観ではなく、内装とくに吹き抜けに本質がある、と提起している。

   二人は街の商店街とモールを比較して、こんなやりとりをしている。

東さん「日本でも道路は健常者の大人にとっては歩きやすいのだけれど、ベビーカーを押しているとてきめんに歩きにくい。子どもを育てているときに気づきました。ショッピングモールは、排除的と言われるけれど、じつはそういう社会的弱者にやさしい空間を実現している」
大山さん「日本の場合は、ショッピングモールの多くは工場の跡地に建てられます。土地を持っている企業はなるべく効率的に売却したい。細分化するとムダが出てくるので、そのまま買ってくれるところがいい。そうなると、ショッピングモールか大型マンションになる。その結果、行政が規則通りにつくった区画道路よりも、モールの内部に「理想的」な街路ができあがったりする」

   そして、政府が地方で推進している「コンパクトシティ」はモールとして実現する、と大胆な予測をしている。

   ラゾーナ川崎、埼玉県越谷のイオンレイクタウン、千葉県船橋市のららぽーとTOKYO-BAY、同浦安市の東京ディズニーリゾート内のイクスピアリなどを取り上げながら、飛び出したのが、「ショッピングモール・イスラム起源説」という突拍子もない話だ。

   モールの空間は、砂漠という環境におけるオアシスとしてデザインされているというのだ。日本の場合、広大な駐車場を砂漠と見立てれば、そう見えないこともない。

   世界で最初のモール型ショッピングセンターは、1956年にアメリカ・ミネアポリス郊外にできたサウスデール・センターだそうだ。

「砂漠の中に楽園としてつくられた庭園がヨーロッパを経由し地球を半周してアメリカにたどり着き、同じような乾燥した気候の西海岸でモールという形式を獲得したのではないか。そしていまぐるりと地球を一周してドバイに世界最大級のモールが存在する、という珍説だ」(大山さん)

   このほかにも、「いまや駅も空港も公園も、図書館でさえ、どこか『ショッピングモール的』であることを意識してつくられ、運営されるようになっている」(東さん)

「『吹き抜けがあるのがモール』で、『ないのが百貨店』ということがわかってきました。その点、阪急梅田はさすがです。最近リニューアルされて、いままでなかったたくさんの吹き抜け空間が生まれた。また表参道ヒルズでは、吹き抜けとガレリアが一体化されている。いわばモールの最終形ですね」(大山さん)

などの観察が紹介されている。

   特定の企業を連想させるためか、日本ではこれまであまりショッピングモールは議論や観察の対象はおろか、都市論や建築批評からもパージされてきた。本書は学問的な研究ではなく、「放談」(東さん)だそうだが、取り上げている領域はじつに広く、おもしろい。

   業界やマーケティング関係者だけでなく、広く消費や都市に関心のある人にオススメしたい。

「ショッピングモールから考える」
東浩紀・大山顕著
幻冬舎
840円(税別)

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