問われる法科大学院の存在意義
しかし、1989年あたりから風向きが変わった。破産や債務整理事件が増え、弁護士への依頼者層が拡大した。サラ金やクレジットカードの負債に苦しんでいた人たちが弁護士に駆け込むようになったのだ。テレビやラジオを通じて、「自分でも弁護士に依頼することができる」と知った低所得の人たちが雪崩を打って、弁護士事務所の顧客になった。
さらに、2001年の司法制度審議会の意見書により弁護士の大幅増員が決定され、2004年に法科大学院ができて以降、弁護士の業界は大幅に様変わりした。
弁護士の業界に競争と格差が生じ、弁護士は資格があるというだけでは食っていけなくなったのだ。年収数千万円の弁護士もいるが、年収300万円程度の弁護士いる。
民間企業に就職した同級生よりも年収が少なく不安定なので、学生の間で弁護士の人気が凋落した。
東大法学部と言えば、「文系エリート」たちが集う頂点。官僚、弁護士を多く輩出した。銀行など民間企業に行くのは「あまり勉強ができない奴」と見なされた。だが、時代は変わった。官僚の人気も低下、優秀な層は高額な報酬とキャリア形成を求めてコンサルタント企業へ行ったり、法科大学院を経由せず、予備試験を受けて弁護士になったりする。
2月8日(2021年)法務省が発表した司法予備試験の合格者のデータによると、昨年1万608人が受験し、442人が合格した。合格率は4.17%。合格者の最年少は18歳、平均年齢は25.89歳だった。
合格者は今年以降の5年間の司法試験を受験できる。司法試験では例年、法科大学院修了生を大幅に上回る割合で予備試験合格者が合格しており、法科大学院の存在意義が問われる事態にもなっている。
かくして、弁護士の業界も変わった。弁護士事務所に入り、しばらくは雑巾がけをするのが当たり前だったが、事務所に採用されず、「即弁」する若手も増えた。ただ、彼らは練度が不足、ノウハウもないので、失敗も少なくない。