東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)が2021年2月12日、ついに辞任に追い込まれた。後任選びもドタバタを極めた。
森氏自ら元日本サッカー協会会長(日本トップリーグ連携機構会長)の川淵三郎氏(84)に就任要請を行い、川渕氏は、
「森さんの男泣きにほだされた。僕の人生最後の大役。森さんを相談役にする」
と、報道陣を前に熱弁をふるった。
そして、2月12日の組織委で川渕氏が後任に選ばれる段取りと思いきや、政府や東京都、スポンサー企業などから「待った」がかかり、白紙に戻った。
それはそうだ。企業で言えば、引責辞任の社長が取締役会を経ずに勝手に後継指名。そして自分は相談役で残る。こんなルール無視、「昭和の日本」では通ったかもしれないが、世界には通るまい。東京五輪はいったいどうなるのか――。
バッハ会長の冷徹さ
こうしてIOCに見捨てられたことが大きい。朝日新聞(2月12日)「IOC初動失敗した末に」で、稲垣康介・編集委員はIOCバッハ会長の冷徹さを、こう指摘している。
「IOCは2月9日、森会長発言について態度を一変させる厳しい声明を出した。バッハ会長はどんなに蜜月の関係の相手にも、自身に火の粉が降りかかる恐れを察知すれば一転、冷徹に振る舞う。東京五輪招致の買収疑惑でJOCの竹田恒和・前会長が仏検察の捜査対象になった時、IOC委員を辞するよう促したのはバッハ会長。『決断に最大級の敬意を表する。五輪運動を守るために一歩を踏み出した点で、より尊敬の念を抱く』。これは2年前、竹田氏がIOC委員を辞任した時のIOCの声明だ。森会長が辞任した時は、似た声明が出ることが想像できる」
事実、バッハ会長は2月12日、森氏の辞任発表を受けて次のコメントを発表した。
「森喜朗氏の決定を全面的に尊重し、その理由も理解している。東京五輪開催に向けた貢献に感謝する」
たしかに、竹田氏の時とよく似たコメントだ。
さて、「後任・川淵三郎氏」は、なぜ潰されたのか。まず、森氏より高齢の、しかも男性が就任することに海外メディアの猛反発が大きかった。
朝日新聞(2月12日付)「森氏後任『再び80代の男性なら...』米専門家が疑問視」が、こう伝える。同紙は、米テレビ局NBCに「森よ、去れ」と寄稿した米パシフィック大学のボイコフ教授に話を聞いた。ボイコフ教授は川淵三郎氏について、こう語ったのだ。
「もし、東京の組織委がジェンダーの平等について真剣に考えるならば、より多くの選択肢を考え、最適な人選をするのではないか。五輪は世界的な舞台であり、世界の注目を集めている。再び80代の男性が就くならば、『これが日本のジェンダー平等だ』という明確なメッセージを世界に発信することになる」
と批判した。
「密室人事」阻止に力を発揮したスポンサー企業
また、ここでもスポンサーの「良識」が力を発揮した。NHK(2月12日)「森会長後任 選考の委員会新たに設置へ 組織委」が伝える。
「森会長が後任の会長への就任を川淵三郎氏に打診したことについて、スポンサー企業の関係者からは疑問の声も出ている。あるスポンサー企業の関係者は、NHKの取材に対し、『後任の会長は、民意の最大公約数が反映された形で選任されるべきだと思います。問題を起こした人物が実質的に後継者を指名するのは社会的に理解を得られるのでしょうか』と話した。別のスポンサー企業関係者は『適任者であれば高齢でも問題ないと思いますが、選び方の透明性は確保されなければならないでしょう』と話した」
こうした声を受けて、政府や東京都が「密室人事」排除に動いた。加藤勝信官房長官は12日の記者会見で、
「透明性を持って手続き、手順を踏んで、しっかり議論することが大事だ」
と指摘した。
東京都の小池百合子都知事も同日、記者会見で、
「世界が見ています。しっかりした手続きで透明性を持って決めていってほしい。東京都からも組織委に人が出ています。きちんと伝わる手続きで選ばれるか見ていきたい」
と語った。
五輪組織委の副会長には多羅尾光睦・都副知事がおり、26人の理事の中には4人の都議会議員や都職員がいる。後任会長を決める際、「密室人事」が行われないようけん制した形だ。
橋本聖子五輪相「女性会長」誕生なるか?
五輪組織委員会は今後、早急に次の会長選びの手続きを決めるが、ここにきて橋本聖子五輪担当相(56)が後任に浮上している。毎日新聞(2月12日付)「橋本聖子五輪相、森会長の後任に浮上 女性の就任求める声相次ぐ」がこう伝える。
「森喜朗会長の後任に、橋本聖子五輪担当相の名前が挙がっている。複数の関係者が明らかにした。森氏は当初、川淵三郎氏を後任に推す予定だった。しかし、『密室政治』と批判が上がり、一夜で撤回した。密室批判を回避し、男女平等の理念を実現するため、関係者からは『女性会長』を求める意見が相次いだ」
「橋本氏は現役時代、スピードスケートと自転車で夏冬計7回の五輪に出場した実績を持ち、日本オリンピック委員会(JOC)の副会長も務めていた。政府関係者は『橋本氏は政治家でオリンピアン。IOCとの関係も考えると他にはいない』と話す。ただ、組織委会長と閣僚の兼務はガバナンス上、問題とされるため、橋本氏が会長に就く場合は、五輪担当相を退く可能性が高い。後任の五輪担当相の候補には2016~17年に務めた丸川珠代参院議員が挙がっている」
と極めて具体的だ。
(福田和郎)