新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、株主総会をめぐって企業ではオンラインでの開催を模索する動きが強まっている。
これに応じて、インターネットを使った「バーチャル株主総会」について2020年2月に実施ガイドを作成した経済産業省は、コロナ禍の出口が見えないなか、株主総会のバーチャル化をさらに後押ししようと2021年2月3日、新たにガイドラインを公表した。この中で、バーチャル株主総会の開催でカギとなる株主の「なりすまし」を防ぐ方法などを具体的に示している。
昨年の株主総会、「出席型バーチャル総会」は9社だけ
会社法では、取締役や株主らが一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催し、その一方でリアル総会には不在の株主がインターネットなどの手段を用いて遠隔地から「参加」あるいは「出席」することが認められている。
経産省のガイドラインでは、これを「ハイブリッド型バーチャル総会」という。「3密」を避けなければならないコロナ禍に適した株主総会の開催方法としてクローズアップされた。
三菱UFJ信託銀行の調べによると、2020年6月にオンラインを使った株主総会を開いた企業は122社。このうち113社は傍聴だけできる「参加型」で、質問や議決権が行使できる「出席型」は9社だった。
その前年の2019年6月には、参加型は5社、出席型を実施した企業はなかった。コロナ禍がバーチャル総会の開催に向け、企業の背中を押したのは明らかだ。
参加型と出席型を比べると、出席型のほうが遠方の株主も「臨場」が容易で、リアル会場の座席も間引けることから、コロナ禍ではよりふさわしく、株主総会の効率運営が可能だ。
しかし、出席型のバーチャル総会が成立するためには、オンライン出席の株主が質問や議決権行使をオンラインで、よりリアルタイムで実行できなければならない。たとえば、通信の不具合や手続きのエラーなどでオンライン参加者の議決権行使がうまく進まないことがあれば、決議の無効や取り消しのリスクもある。
そういったリスクを排除するためには、ハイレベルな通信技術が必要になるなどハードルが高く、2020年の出席型実施企業のほとんどはIT系の企業だった。出席型の普及を念頭に置いた今回の経産省のガイドラインでは、それらの企業の実例をもとに、難しいとされる本人確認の徹底した「なりすまし」防止の方法を示している。
「ID・パスワード」から「ブロックチェーン」も
実例集のなりすまし防止法は、企業によってさまざま。プラットフォームやソリューションに関する事業を手がけるIT企業のパイプドHD(東京都港区)は議決権行使書に記載したID及びパスワードでログインできるよう設定。ヤフーから2019年10月に名称変更したZホールディングス(東京都千代田区)は、株主番号と届出住所の郵便番号、そして保有株式数と、株主固有の複数の情報で認証する仕様にした。
映像や画像を使った確認方法も使われた。スマートフォンアプリやオンラインゲームのガーラ(東京都渋谷区)は、オンライン出席の場合、その事前の段階で、株主番号、氏名、住所に加えて、議決行使書の画面キャプチャの提出を求めた。人材関連のソーシャルウェブメディアやクラウドアプリケーションなどに携わるグローバルウェイ(東京港区)は、オンライン出席の受付時に画面に顔や整理番号を映すことを求め、本人確認した。
ソフト開発のアステリア(東京都品川区)は「議決権行使データの改ざん防止を図り、より透明性の高い議決権行使を実現するため、ブロックチェーン技術を利用した議決権行使システムを活用した」と、紹介している。
ガイドラインでは「出席型の論点」としてほかに、「配信遅延の対応」や「通信障害対策」のほか、「質問の受付・回答方法」「動議の取り扱い」などの事例も紹介している。政府は、リアル総会を伴わないオンラインだけで行う株主総会のニーズが高まるとして、会社法の特例措置を設ける方針。2021年2月5日には、株主総会の全面オンライン開催を可能にする産業競争力強化法などを一部改正する法律案を閣議決定。改正案は今国会に提出された。
今回のガイドラインでは、いきなり「出席型ではハードルが高い、まずは参加型で」という企業のための入門編として「参加型・出席型共通の論点」を示している。