森会長を留任させるリスク
特筆すべきは、当初の報道と比較してハッキリと「森会長辞任」に言及するメディアが増えてきていることです。さらに、「このまま森会長を留任させれば、『ジェンダー平等』を掲げるIOCの存在意義が危機にさらされる」「(森会長の留任は)東京五輪とIOCにとって決定的なダメージだ」と、森会長を留任させる「リスク」を厳しく指摘する記事が目立ちます。
なかには、「ここ数日間でIOCが森会長を辞任させられるかどうかが見ものだ」という専門家も。辞任を前提にした「お手並み拝見」ムードが漂っていますが、果たしてIOCはどう反応するのでしょうか?
そんななか、IOCのホームページやツイッターが「北京冬季五輪モードに切り替わった!」ことが話題になっています。「バッハ会長はすでに東京を見捨てたのか!」との声も聞こえてきますが、実際は来年2月4日の北京五輪開幕に向けて1年を切ったことから、「カウントダウン」プロジェクトが始まっただけのようです。
たしかにIOCのホームページを見るとすっかり冬季五輪モードに変わっていましたが、私が「興味深い」と思ったのは、北京冬季五輪を礼賛するバッハ会長の下記のコメントでした。
Having seen how China is overcoming the coronavirus crisis, we are very confident that our Chinese hosts will ensure safe and secure Olympic Games
(中国が新型コロナウイルスの危機をどのように克服してきたかを見ると、私たちは中国が安心で安全なオリンピックを開催できるということに大いなる自信を抱いている)
「コロナウイルスに打ち勝った証しとしての東京五輪」は菅義偉首相の「決まり文句」ですが、バッハ会長にとっては中国こそが「新型ウイルスの危機を克服した国」のようです。
お騒がせ発言で火だるまになっている東京五輪のことは忘れて、さっさと北京冬季五輪に目を向けたい、そんなバッハ会長の「ホンネ」が見え隠れしているような気がしました。
それでは、「今週のニュースな英語」は「inappropriate」(不適切)を使った表現です。
It is inappropriate!
(それは不適切だよ!)
His statement was inappropriate
(彼の発言は不適切だった)
His inappropriate statement causes a backfire
(彼の不適切な発言は裏目に出た)
それにしても、海外メディアをウオッチしていて痛感するのは日本の政界や経済界トップの「世論とのズレ」です。今回の「森発言騒動」は完全に国内外「世論」を見誤ってリスクヘッジに失敗していますが、逆に「世論」の力を再認識させられました。フツーの人たちの声こそが未来を創る、と信じたいものです。(井津川倫子)