「防御性能」「飛散防止力」を評価
マスク専門家の飯田さんは、新型コロナウイルスの感染症拡大防止でマスクが欠かせない別の理由を、国際学術誌「Nature Medicine(ネイチャーメディシン)」を引用して、こう説明する。
「季節性インフルエンザの場合は、感染の症状が現れる2日前からウイルスの排出が始まり、人への感染症のピークは症状が現れた後。しかし、新型コロナウイルス感染症は、症状が現れる2日以上前からウイルスの排出が始まる。発症前に感染症のピークがあることが特徴的」。つまり「症状が現れてからマスクを着けるのでは、周囲にウイルスをまき散らしてしまう可能性がある」のだ。
日本ではかなり以前から人々がマスクを着けることに慣れていると思われるが、2003年のSARSの流行で「慣れ」の度合いはさらに進んだ。花粉症やインフルエンザ対策としてもマスクは有効と目されるようになっているが、じつは、一般市場で使用されている不織布や布のマスクを着用する効果についてはあまり検証されずにきていたという。
感染症のピークが発症前にくるコロナ感染症を抑え込むのは、いわば見えない敵との戦い。「ユニバーサルマスク(無症状の人も含めてマスクを着用すること)」が有効と考えられるが、効果の程度が分からなければその推進は難しい。そこで感染予防のためにマスクの効果検証が必要になり、スーパーコンピューターを用いたシミュレーションも実施された。
飯田さんによると、マスクの役割は大きくふたつ。「環境中に浮遊している小さなホコリ(アスベスト、カビ、ウイルスなど)を吸い込まないようにすること(割合を減らすこと)」(防御性能)と「自分が呼吸器にウイルスをもっているときに周囲にまき散らさないようにすること」(飛散防止力)。この両方の役割を果たせるマスクが「性能として良いマスク」だ。
具体的に、どんなマスクを選んだらよいのか――。本書では、規格や使用目的など代表的な6つのマスクを例に説明。「今回あげたのは、これまで実験を行ったきた中でも良いマスクだな、信頼できるマスクだなと感じたものばかり」と飯田さん。「防御性能」「飛散防止力」のほか「肌触り」「1枚あたりの価格」―の4つの項目について、被験者5人で評価した。防御性能、飛散防止力、肌触りについては、レーダーチャートにして表示。総合的な評価もひと目でわかるようになっている。
「感染症時代のマスクの教科書 的確に選んで、正しくつける」
飯田裕貴子著、眞鍋葉子著
小学館
1300円(税別)