日本はもちろん、世界中で沸き起こる「辞めろ」コールにもかかわらず、東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長の座に居座り続ける森喜朗氏(83)。2021年2月9日、突然IOC(国際オリンピック委員会)が森会長の女性差別発言を「絶対に不適切!」という極めて激しい言葉で批判する声明を出した。
5日前までは「この問題は終わった」と表明。擁護していただけに異例の展開だ。IOCという後ろ盾を失った森会長は辞任に追い込まれるのか。
東京都の小池百合子知事をはじめ、外堀を埋める動きが加速している。
小池百合子都知事が切った「森おろし」カード
元アスリートたちも抗議の声を上げ始めた。陸上男子400メートル障害の世界選手権銅メダリスト、為末大さんが毎日新聞(2月10付)のインタビュー記事「為末氏『森会長辞任した方がいい』」の中で、こう語った。
「女性差別というよりも、マイノリティーの人たちが会議で感じる息苦しさが、全部『わきまえないといけない』という発言に集約されている。私はパラスポーツに関わった経験から、会議場に車いすで入ってきた人が、時間がかかることを理解している。日本がパラリンピックに力を入れている中で、(森氏は)同じ感覚でパラリンピックも見ているのかな、と」
外堀を埋めると言えば、影響力が大きい米国のバイデン大統領の発言も致命的だ。今夏の東京五輪が安全に開催できるかは「科学に基づき判断すべきだ。われわれは科学を重視する政権。他の国も同じだと思う」と発言した。「コロナはどういう形になろうと必ずやる」と発言した森会長の「非科学的」な態度と真逆の姿勢だ。
こうしたなか、東京都の小池百合子知事も森会長を突き放す動きに出た。じつは東京五輪開催の準備状況の確認のために、IOCのバッハ会長らが2月15日から来日するが、バッハ会長と森組織委会長、橋本聖子五輪担当相、そして小池都知事の4者会談を、2月17日に開催することで調整が行われていた。ところが、小池都知事が2月10日、突然4者会談に「出ない」と明言したのだ。
共同通信(2月10日)「小池知事、五輪4者会談欠席へ 森氏の女性蔑視発言で」が、こう伝える。
「小池百合子都知事は2月10日、東京五輪の開催に向けて今月予定されているIOCのバッハ会長らを含めた4者会談について『今ここで開いてもあまりポジティブな発信にならない』と述べ、出席しない意向を示した。森喜朗会長の女性蔑視発言により、ボランティアの辞退者などが相次いでいることを考慮した」
4者会談は、今夏の東京五輪開催の実現に向けて、IOC、五輪組織委、日本政府、東京都の「結束」を確認する場になるとみられていた。そこに、小池都知事が突如切った「欠席カード」に臆測が広がっている。小池氏が「森会長の退陣」を日本政府や組織委に迫ったという見方が大勢だ。2月12日の組織委の会議が注目される。
森会長が思い続けた後任者は......
ところで、森会長が辞任したら後任は誰になるのだろうか。森会長自身がひそかに考えてきた意中の人物がいるという。やはり「あの人」だ。
毎日新聞(2月7日付)「森氏『説得受け』辞意翻す」で、同紙の鈴木琢磨記者が森会長の単独取材に成功している。その中で、森氏は鈴木記者にこう語っている。
「そもそも私は(五輪組織委という)官民の寄り合い所帯を3年くらいでまとめあげたらさっさと退いて、安倍晋三前首相に引き継げればと考えていたんです。それが長期政権になってかなわず、私が続けたのです。(一時辞任を考えた時)安倍さんの顔も浮かびましたが、開催まで半年と迫ったいまは迷惑だろうし...。」
そして、世界中の「辞めろコール」のなか、居続けている苦悩を鈴木記者にこう吐露したのだった。
「孫娘が猛烈に怒っていて。寝られずに会社も休んだという。さっきも電話でこう言われました。『すぐ辞めて。もう命削ってまで仕事しなくていい。おじいちゃんが辞めなければ、私が会社辞める』と。ショックですね。つらいです」
森会長は、ずっと後継者として安倍晋三前首相を考えていたわけだ。
(福田和郎)