11年ぶりにビール業界シェアトップを奪還したキリンビール株式会社は、フラッグシップブランドである「キリン一番搾り生ビール」を、2年ぶりにリニューアルする。2021年2月4日にメディア向けにオンラインで「キリンビールのビジネス概要説明および『新・一番搾り』『おいしさ』先行体験会」を開いた。
新型コロナウイルスの感染拡大で、「巣ごもり需要」が伸びるなか、キリンビールは2020年のビール類(ビール、発泡酒、新ジャンル)の販売実績で、市場を大きく上回る成果を上げた。新たに投入する「新・一番搾り」をけん引役に、2021年はさらなる飛躍を目指したいとしている。
時代は「ゆっくり味わう『おいしさ』」求める
とくとくとくっ......。グラスを傾けず少量を注いで泡立て、その後、グラスを片手で持って傾けて、泡を持ち上げるように注ぐ。
今回、「一番搾り」のリニューアルを担当したキリンビール・マーケティング部で、「味の責任者」ともいわれるマスターブリュワー、田山智弘氏が、「『おいしさ』先行体験会」で、「一番搾り」のおいしい味わい方をデモンストレーションしてみせた。
キリンビールの常務執行役員マーケティング部長、山形光晴氏によると、キリンビールは2021年、消費者に評価が高まっている「一番搾り」ブランドをけん引役としてビール類事業の成長を図る計画を打ち出した。
「一番搾り」の販売目標の合計で前年(20年)比13%増、缶製品でも13%増を目指すという。目標達成をサポートする成長エンジン育成策の一つとして、小規模飲食店向け新サーバー「TAPPY(タッピ―)」を展開。飲食店向けに小容量ペットボトルを使った新しいサービスで、中小飲食店向け業務用市場の開拓を計画している。
今年の「一番搾り」の成長を支える大きな柱の一つは、2年ぶりに実施するリニューアルだ。1990年の発売以来5回目で、マスターブリュワーの田山氏によると、キリンが目指す「理想のビールのおいしさ」を具現化したという。
キリンのビールづくりの目標として、ドイツ語の「バイター・トリンケン(飲みやすく飲み飽きない)」という言葉が言い習わされていて、同社が追求する「理想」でもあるという。「一番搾り」のリニューアルにあたり、400回を超える試醸(試験醸造)を行い、「究極の調和」を目指し、バイター・トリンケンの実現を図った。
高度成長期やバブル期では、ビールというと「ごくごく飲み干す」ことによる「止渇性」が求められたが、「成熟期」とされる現代では「ゆっくり味わう」ことができる「おいしさ」が求められており、リニューアルを経た「新・一番搾り」は、そのことに適合したビールになっているという。
「一番搾り」は2月製造品から、リニューアルされたものに切り替わり、順次店頭に並ぶ予定だ。
「ビール類市場を大きく上回る成果」
「おいしさ先行体験会」に合わせて行われた「キリンビールのビジネス概況説明」では、キリンビールの常務執行役員マーケティング部長、山形光晴氏が登壇し、説明に当たった。
2020年の業界全体でみたビール類の合計販売数量は、コロナ禍で前年比9%減、ビールでは22%減となる見込み。その中で、キリンビールの実績は、ビール類が1億2941万ケースで前年比4.5%減にとどまり、ビールは3602万ケースで18.6%減に抑えた。
「コロナ禍にもかかわらず、ビール類市場を大きく上回る成果を上げることができた。当社製品が支持されたことであり、非常に手ごたえを感じている」
と、山形部長は話す。
またビールでは、2019年にリニューアルした「一番搾り」缶製品の好評が20年も持続。同年10月には「一番搾り 糖質ゼロ」が投入され、ビールの好調を支えた。山形部長は、「おいしさを追求する姿勢を体現するブランドとして『一番搾り』が評価された」と分析している。
2020年10月には酒税法が改正され、ビールは日本酒とともに減税対象となり、各製品の値下げが実現。このことも「一番搾り」に追い風になった。お手ごろ価格になってビールのトライアルが促進され「一番搾り」ブランドは、キリンの他のビール類製品と比べて大きく飛躍。酒税法改正後の20年10~12月の「糖質ゼロ」を含めた「一番搾り」ブランド缶製品の販売数量は、他のビール類は前年並みななか、前年同期比150%増を超えた。
酒税法改正後の20年12月、キリンビールでは「ビール選びで重視すること」について消費者アンケートを実施。それによると97.8%が「おいしさ」を挙げ、これが最重視される基準とした。この結果から、山形部長は「一番搾りが飛躍を遂げたのは、『おいしさ』が選ばれたため」としている。