今年(2021年)は、円高ドル安を予想するエコノミストが、いつもの年より多いように感じます。
円高になる理由にはいくつかあります。
「円高傾向」でも1ドル=100円を割らず...
まず、円そのものが割安で取引されていることです。購買力平価がいくらなのか――。それはエコノミストによって違うと思いますが、おそらく1米ドル=95円から100円程度のところに集中しているのではないかと思います。
しかし、米財務省が毎年出している為替報告書では、かつて円は20~25%割安と指摘されていました。110円のときに20%割安と指摘されたとすれば、88円前後が適切なレベルと米財務省は考えていたと解釈できます。
二つ目の理由は、米国の超金融緩和政策がまだ当面続けられることです。2020年に米国は劇的に金融緩和を進め、現在、政策金利はゼロ近辺にあります。しかも昨年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で発表された「ドットチャート」を見ると、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長を始め多くの政策委員の方々は2023年になっても現行の緩和を維持すると答えています。
米国は期待インフレ率が2%前後ある国です。事実、現在の期待インフレ率は2%近辺です。10年の長期金利は現在1.1%前後なので、実質金利はマイナス0.9%とも言えます。
その一方、日本の期待インフレ率は極めて低い水準です。期待インフレ率が低いので、実質金利は意外な高さになります。実質金利で比べると、日本のほうが高金利という理屈になります。
割安で実質的に高金利となれば、円は自然強くなるはずです。
しかし、この2~3年、何度か円高方向を試しましたが、1ドル=100円すら割り込みませんでした。今年に入って、年明けすぐに102円60銭前後まで試しましたが、跳ね返されました。何度試しても円高にならないということは、大きな相場の転換点になっているのかもしれません。
通貨の強弱を決めるのは何か?
ドル円は、2020年7月1日に1ドル=108円16銭から引いたトレンドラインを1月28日に突破し、上値余地を拡大しています。一目均衡表の雲も同じようなところにありましたが、あっさりと上抜けしていきました。
現状105円前後で推移していますが、これだけ円高方向の動きが何度も否定されていたとすれば、何かが起こっているのかもしれません。
米国経済もコロナの影響で2020年はオペレーションを縮小しましたが、コロナ禍の環境に強いIT企業が米国にはたくさんあります。生産水準は、すでにコロナ禍前の水準を抜いてきました。ところが、日本企業全体の生産水準は極めて低く、まだコロナ禍前の3分の2といった水準です。
通貨の強弱を決めるのは何か?
いわゆる「国力」というものではないかという意見もありますが、「国力」ではあまりにも漠然としています。富を創造するのは企業だけだということを考えると、強い企業をたくさんその中に持つ国が強い国であり、将来的に通貨価値が上昇するのだと思います。
日本には米国のIT企業と戦える企業はほとんどありません。いまだに大きな時価総額を誇るのはトヨタ自動車ぐらいであり、それでも時価総額は20兆円を少し超えたところです。米国には240兆円に迫ろうというアップルがあり、100兆円を超える企業としてアマゾンやマイクロソフトなどがあります。アジアにもサムスン(韓国、40兆円企業)やTMSC(台湾、約60兆円)があります。
すなわち、日本には競争力がない。そうであるならば、円高トライは今後ますます難しくなっているのでしょう。2021年、今年は意外な円安。そんな気になっています。(志摩力男)