医学書にもない肛門トラブルが増加しています。「日本人の3人に1人は痔(じ)である」といわれています。痔ゆえに「温水洗浄便座」で洗うようになったという人も少なくありません。
しかし、洗うとかえって、痔が悪化する危険性があることをご存知ですか?
「オシリを洗うのはやめなさい」(佐々木みのり著)あさ出版
ある患者さんのエピソード
佐々木さんの診療所には日本各地、海外からの患者さんも多いそうです。しかし、肛門科を訪ねるのは勇気がいること。そのため、すでに来院する時には楽観的な状況ではないことも少なくありません。
著者の佐々木みのりさんは、
「ある、65歳の女性が一人で来院されました。長年勤めた会社を定年退職したので時間もできたし、人生の区切りとして、思い切って勇気を出して、肛門科を受診しようと思って来たと問診票に書いてありました。出産後、30代くらいから痔があったようですが、恥ずかしくて誰にも相談できなかったようです」
と、切り出します。
「通販で買える痔の薬を家族にも内緒で取り寄せで使い続けていました。幸い、痛みもなく、時々出血するものの大した量ではなく、大丈夫だろうと病院に行きませんでした。新聞広告でも『痔は薬で治せる』と書いてあったし、電話相談でも『使い続けたら治る』と言われていたので、迷うことなく使ってきましたとのことでした」
ところが、診察、検査をしてみると、彼女のイボは痔によるものではなく、がんである可能性が高いことが分かりました。佐々木さんは、大きな病院を紹介するから、一刻も早く受診してほしいことを伝えます。
「このようなケースは少なくありません。きっと、私が経験していることは氷山の一角でたくさんあることでしょう。症状が出ていることに気付いているのに病院に行かないなんて、とてももったいないことです。不安が少しでもあるのなら、一度、肛門科を受診して、自分のカラダに起きていることが何かを確かめてください」
佐々木さんは、そう背中を押します。
便秘は臭いに注意
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、成人の便秘症の有訴者率は男性4.0%、女性5.9%で、成人になると約14%に増加します。日本人の7人に一人が便秘の症状をもっているのです。
便秘になると臭いに注意しなければいけないと、佐々木さんは指摘します。
「それは、『出残り便秘』です。出残り便秘のことをお医者さんが知らない場合が多いうえ、精神科や心療内科では肛門の診察をしないので、実際に肛門から臭いが漏れ出ているのに『自己臭症』『自己臭恐怖症』と診断され、精神科の薬を飲んでいる患者さんが来院されることもあります」
佐々木さんは、
「便が常に肛門に鎮座しているのですから、臭いがあって当然です。臭いがあるのなら、それを取り除けばいいだけなのに、精神的、つまり、心の病のせいにされてしまうことで心が参ってしまう人もいます。何をしても治らなかった症状の原因が出残り便秘である可能性もあるのです。このような場合は、出残り便秘を疑ってみるといいかもしれません」
と話しています。
インターネットの情報やメディアにも誤った情報が多いので、正しい情報をキャッチアップしなければいけません。また、最近では冒頭にふれたように、温水洗浄便座による弊害が多いようです。「痔だー!」と言って受診した患者さんが「ただの洗い過ぎ」だったという結末も多いとのこと。この機会にオシリの正しい情報を入手しましょう。(尾藤克之)