2021年2月1日、11の都府県への緊急事態宣言の期限が7日に迫るなか、政府は宣言を1か月延長する方針を固めた。2日に諮問委員会に諮り、政府対策会議を開き、正式決定する。
3月まで緊急事態宣言が延長されると、そうでなくても開催に反対する世論が強い東京五輪・パラリンピックはますます厳しい状況に追い込まれそうだ。
菅義偉首相はあくまで、
「新型コロナ感染症ウイルスに勝った証にする」
というスローガンを降ろしていないのだが......。
「バイデン頼みだ。バッハなんかに決められない」
こうしたなか、五輪組織委のキーマンが海外メディアに発言した内容が物議を醸(かも)している。組織委の高橋治之理事が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じて、
「オリンピックはアメリカ次第。バイデン大統領が前向きな発言をしてくれれば勢いがつく」
と語ったという。
ウォール・ストリート・ジャーナル電子版(2021年1月27日)「Olympic Official Seeks Biden's Help to Save Tokyo Games:'It's Up to the U.S.'」( 東京五輪開催は米国次第:組織委理事 バイデン氏の支援に期待」)によると、高橋氏は、こう語ったのだった。
「バイデン大統領は(米国内で)コロナウイルスの厳しい状況に対処している。バイデン氏が、何とかしてオリンピックを開催しようという前向きな発言をしてくれれば、懐疑的な日本国民に影響を与え、アスリート派遣に自信を持てない国々を安心させることができる」
また、高橋氏はこんな「問題発言」も述べたのだった。
「(米国で放映権を独占する)NBCも含め、アメリカに参加してもらうことが何よりも大事だ。言いにくいことだが、IOCやバッハ会長に決められることではない。彼らにそんなリーダーシップはない」
ずいぶん思い切った発言だ。高橋氏は「電通」の元専務。五輪やサッカーW杯など多くの巨大スポーツイベントの舞台裏を仕切ってきた実力者だ。五輪を開催するか、中止するかの最終的な決定権はIOCにあるが、事実上決めるのは米国の意向、具体的にはバイデン大統領が決めるとわかったうえで、影響力のある米メディアを通じて訴えたと思われる。実際、昨年3月に東京五輪が1年延期された時は、米国の競技団体の「開催反対」の声が影響した。
この高橋氏の「毒舌」を取り上げたのが、毎日新聞の名物コラム「風知草」(2月1日付)「商業化五輪の転機」である。コラムの中で山田孝男・特別編集委員は、こう書いている(敬称略)。
「『オリンピックはアメリカ次第。大統領が開催に前向きな発言をしてくれれば勢いがつく』――。東京大会組織委員会の高橋治之理事が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューでそう言った。高橋はこう続けた。『アメリカに参加してもらうことが何より大事。IOCとバッハ(会長)に決められることじゃない。彼らにそんなリーダーシップはない』。この毒舌は、商業化が極まった現代五輪のゆがみを言い当てている」
「1月28日、バイデン米大統領と菅義偉首相が電話協議に臨んだ。五輪の話は出なかった。高橋の逸話をどう思う? 対米調整の前線に立つ外交官に聞くと、こう答えた。『バイデンほど用心深い人はいない。コロナに無頓着なトランプを批判し、大統領選の見せ場でもマスクを外さなかった。就任後も外国要人との面会は避けている。(五輪で)東京へ行こうと呼びかけて、万一、大会で(感染症が)まん延したら責任ものです。何が悲しゅうて、そんなリスクをとるかっちゅう進境でしょう』。前のめりで大統領に五輪参加を勧めたりせず、菅首相は賢明だった」
そして、山田孝男記者はこう結ぶのだった。
「高橋は巨大スポーツイベントを仕切る実力者。現代五輪は、米国のテレビが払う放映権料、米国の世界企業が出すスポンサー料で動いている。舞台裏を知る男だからこそ『五輪は米国次第』の現実が見えてくる。選手の努力を思えばしのびないが、東京大会は中止が自然。米大統領頼みの『金満五輪』回帰はない」