2021年2月1日、11の都府県への緊急事態宣言の期限が7日に迫るなか、政府は宣言を1か月延長する方針を固めた。2日に諮問委員会に諮り、政府対策会議を開き、正式決定する。
3月まで緊急事態宣言が延長されると、そうでなくても開催に反対する世論が強い東京五輪・パラリンピックはますます厳しい状況に追い込まれそうだ。
菅義偉首相はあくまで、
「新型コロナ感染症ウイルスに勝った証にする」
というスローガンを降ろしていないのだが......。
追い込まれて「無観客開催」に舵を切った政府
東京五輪の開催に反対する国民の意見は高まるばかりだ。日本経済新聞が2月1日に発表した最新の世論調査によると、東京五輪・パラリンピック開催について、「中止もやむを得ない」が46%、「再延期もやむを得ない」が36%で、合わせて82%の人が今夏の開催に反対した。「感染対策を徹底したうえで開催すべき」は15%にとどまった。
朝日新聞が1月25日に発表した世論調査でも「今夏に開催」は11%にとどまり、「中止」と「再び延期」が86%に達した。社説(主張)で開催に積極的な姿勢を強く打ち出している産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が1月25日に発表した世論調査でも「反対」が8割を超えた。
こんな逆風のなか、緊急事態宣言がさらに延長されたら、東京五輪開催に反対する世論がさらに高まるのは必至だ。そこで、これまで「観客を入れての開催」にこだわってきた政府や東京五輪組織委員会も「中止に追い込まれたら元も子もない。背に腹は代えられない」として、無観客での開催に舵を切ったようだ。
時事通信(1月30日付)「五輪『無観客』も容認 政府、中止回避を最優先」が、こう伝える。
「政府は、組織委や東京都が無観客での開催を決断した場合、容認する方針だ。新型コロナウイルスの感染拡大で開催に懐疑的な見方が広がるなか、大会中止を避けることを最優先する。『(無観客は)基本的にしたくないが、それも考えないとシミュレーションにならない』。組織委の森喜朗会長が1月28日、無観客開催も選択肢としていることを記者団に明かすと、加藤勝信官房長官は翌29日の記者会見で『いろいろなケースを想定してやっている』と足並みをそろえた」
政府は、東京五輪を経済再生の起爆剤と位置付け、観客の受け入れを前提に準備を進めてきた。菅義偉首相は昨年11月、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と会談した際、こうした決意を伝達。ところが、今年1月7日に緊急事態宣言が再発令されると、海外メディアの「東京五輪の中止論」が相次ぐなど、国内外を問わず大会実現への不安が広がった。
時事通信が続ける。
「政府は無観客もやむを得ないとの判断に傾きつつある。その一方で、開催自体は譲らない構えだ。首相は1月29日、世界経済フォーラムのオンライン会合で、東京五輪を『新型コロナに打ち勝った証し』とする考えを改めて強調。中止の判断は、政府の新型コロナ対策の『失敗』を認めることになり、是が非でも避けたいのが本音だ。政府は、感染阻止の『切り札』と期待するワクチン接種について、まず医療従事者を対象に2月下旬から始める。全国民に行き渡る時期は不透明だが、閣僚の一人は『ワクチンなしでも五輪を行う』と明言した」
「列に割り込めない」とワクチンを拒否する選手たち
菅首相は一つ覚えのように「コロナに勝った証」を繰り返しているが、その根拠がワクチン接種だ。しかし、ワクチンの遅れも東京五輪開催に暗雲を漂わせている。政府は当初、五輪が開催される7月ごろまでには「日本中にワクチンが行きわたるから大丈夫」としていたが、とんでもない話だ。ここに来て欧州連合(EU)がEU内で製造されたワクチンの囲い込みを図り、域外への輸出を規制する措置に出たため、日本への供給が大幅に遅れそうだ。
また、IOCは感染拡大防止のために、東京五輪に出場する全選手のワクチン接種を推奨するとしたが、WHO(世界保健機関)が「待った」をかけた。朝日新聞(2021年1月26日付)「五輪選手へのワクチン優先接種、WHOは『否定的』」によると、WHOの緊急対応責任者マイク・ライアン氏は、こう語ったのだ。
「最前線の医療従事者、高齢者、社会で最も脆弱(ぜいじゃく)な人々が最初にワクチンにアクセスする必要がある。五輪のリスク管理の措置に関する決定はIOCと日本の当局がすることだ」
と、WHOとしては五輪に協力する意思はないことを強調した。
各国のオリンピック委員会でも自国の選手に優先的にワクチン接種を行うことに反対するところも出ている。スポーツニッポン(2月1日付)「イタリア五輪委員会会長、代表選手へのワクチン優先接種『求めるつもりない』」は、こう報じる。
「イタリア五輪委員会のジオバンニ・マラゴ会長が東京五輪に出場する同国代表選手に関し、新型コロナのワクチンを優先接種させる考えがないことを示した。『高齢者には20歳のアスリートより先に接種を受ける大切な権利がある』と指摘。同国へのワクチン割り当てが予定よりも少ない見通しとなっているが、『(優先接種を)求めるつもりはない』と強調した」
五輪出場を理由に、命の危険が迫っている高齢者を押しのける形で、元気なアスリートがワクチン接種することは、国民の納得が得られないというわけだ。
米国オリンピック委員会も同様の態度を表明した。時事通信(1月23日付)「東京五輪、今夏開催に厳しい観測『ワクチンなし』にも危機感 ―米国」がこう伝える。
「米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)を筆頭とするスポーツ団体は『五輪参加のために選手が(接種を待つ)列の割り込みはしない』と強調。USOPCで医務部門の責任者を務めるジョナサン・フィノフ氏は、『開幕までに接種が受けられるのは、世界的に見ても一部だろう。東京五輪はワクチンなしの大会と考えないといけない』と主張。予定どおりに7月開幕が実現しても、選手らが接種を完了しているとは思えないとの見解を示した」
(福田和郎)