新型コロナウイルスの感染防止のため、政府が緊急事態宣言を発出、テレワークの推進を呼びかけている。日本経済団体連合会も2021年1月19日、今年の春闘に向けた基本方針を発表し、テレワークをどう生かすかが課題だとして労使の話し合いを求めた。
いまだにテレワークを導入していない企業に役立ちそうなのが、本書「イラスト&図解でいっきにわかる テレワークの始め方」だ。ビデオ会議システムの定番ツール「Zoom」、ファイル共有ソフト「Dropbox」、オンラインコミュニケーションの必須ツールとされる「Slack」などの紹介から、導入例やテレワーク対応で使える助成金、補助金まで解説している。
「イラスト&図解でいっきにわかる テレワークの始め方」(秋庭麻衣監修)宝島社
ヤフーの事例「仕事のパフォーマンスは落ちない」
テレワークを導入するまでのステップを、フローチャートで以下のように説明している。
- ・何のためのテレワーク導入か目的を明確にし、経営層の意見を一致させる。
- ・業務の洗い出しなどの現状把握と、問題になりそうな点をピックアップ
- ・導入までのステップと、運用ルール決定、就業規則の調整など
- ・ニーズや予算に合ったツールを選定し、見積もりや申し込みを行う
- ・デバイス(端末)の準備、ICT環境の構築、セキュリティ対策を整える
- ・オフィス勤務と同等かそれ以上の頻度のコミュニケーションが取れる設計をする
- ・端末の取り扱いや、ツールの使い方、ルールの理解など必要に応じて研修を実施
- ・実施もしくはトライアル期間
- ・社員からの聞き取り等で浮かび上がる課題を取りまとめる
- ・運用ルール追加、改善を行う
2016年に「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞したヤフーの導入例が参考になる。オフィス外での勤務を認める「どこでもオフィス」を月5回に拡充。2020年のコロナ禍での緊急事態宣言を受けて、完全テレワークに移行した。
営業部門もスムーズにオンラインへ移行し、Zoomを使った商談のデメリットはないそうだ。「移動時間がなくなり商談数は増えているはず。絶対にオンラインとするわけではなく、お客様のいることなので状況に合わせて今後はフレキシブルに対応していく」(ヤフー)という。
Slackを使ってファイル共有やチャットを行い、ミーティングは通話ではなくZoomを使ったビデオ会議で実施している。雑談スレッドをつくったり、Zoomランチ会を開いたりするなど、会うよりも密なやり取りを心がけるチームもあるという。
本書は「成功している企業は性善説に立っていて、「監視するためのツール」を入れているところは皆無だ。監視する業務に生産性がなく、人数が多くなればそもそも監視すること自体が難しくなるため、監視前提の設計ができない。
勤怠管理と毎日の報告、ミーティングを行えば、テレワークでも仕事のパフォーマンスは落ちない、としている。
機能に特化したジャンル別ツールも
マイクロソフト提供の万能グループウェア「Microsoft365」、グーグルが展開するグループウェサービス「G suite」などの総合ツールのほか、機能に特化したジャンル別ツールの説明が充実している。
パソコンでもスマホアプリでも使える日本製コミュニケーションツール「Chatwork」、大人数・大規模のビジネスでも自由度の高いチャットツール「Slack」、LINEと同じ感覚で使えるビジネス仕様の「LINE WORKS」、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」など多くのツールを紹介している。
「Sansan」のテレビCMを見て、自分が開拓した顧客の名刺情報を共有することに抵抗を感じた人も少なくないだろう。
だが、名刺管理機能だけでなく、顧客管理、営業先の新規開拓に便利な機能が備わっており、ネットショップや飲食店の会員情報管理や、BtoBの営業記録に活用する事例が多いという。
2020年7月には経済産業省が導入を決め、注目度が高くなっている。
さまざまな助成金・補助金
テレワークの環境整備などに使える主な助成金・補助金には、中小企業や小規模事業者がITツールを導入する経費の一部を補助する国の「IT導入補助金」(上限450万円)、「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」(上限300万円)などのほか、東京都のテレワーク補助金(上限250万円)などがある。
国、地方自治体、商工会議所のホームページをチェックし、利用できそうな制度を洗い出すことを勧めている。
テレワークは新型コロナウイルス感染症への緊急対策ではなく、今後も一般的な働き方として定着することは間違いない。将来を見据えた投資、環境整備と考えた方がいいだろう。
「イラスト&図解でいっきにわかる テレワークの始め方」
秋庭麻衣監修
宝島社
1500円(税別)