「孤独のグルメ」のような酒場を訪ねたい...
テレビ東京系のドラマシリーズ「孤独のグルメ」。島田さんは原作者の久住昌之氏との酒場談義にふれている。バブル全盛時代に始まった漫画だが、主人公の井之頭五郎が、ひなびた酒場や飲食店を好んで訪れていることに、島田さんは好感を持ったそうだ。
「私がしたかったことはまさにこれだと思った」
そこから始まった連載は順調に進み、2020年3月にとうとう新型コロナウイルスの流行を取り上げざるを得なくなる。「花見を強行した人はみんな互いを避けるように座っていた」と書いている。自宅待機の勧告を無視し、酒を求め、そば屋に行ったことを明かしている。店はガラガラで、長居も歓迎された。この際だからと、そば屋のつまみを片っ端から注文したそうだ。
「しばらく出社を控え、形式的な会議や顔つなぎの営業や仕事をしてるふりをせずにいると、今までのオフィスワークがいかに無駄だったかをつくづく思い知ってしまうのではないか」
疾病の蔓延は大きなライフスタイルの転換をもたらした、とこの時点で予測しているのは、さすがに作家の「眼」である。
その次の回では「免疫向上メニュー」と題して、ヨーグルト、納豆、ショウガ、ニンニク、ブロッコリー、キノコ類、レバー、ワカメなど、免疫を高めるのに効果があるとされた食材を組み合わせたメニューも紹介している。
さらに、「ポスト・コロナの飲食店の行方」と題し、ヒントは焼け跡の闇市にあるかもしれない、と書いている。「資本力が弱い個人商店はすぐに潰れるが、裏を返せば、すぐに再建できるフットワークの軽さが売りである」として、パンデミックという禍を転じて福となす可能性を考えている。
「食事の場所を自宅から無料休憩所のような公共の場所に移せば、そこが居酒屋や食堂になる」
そして、とうとう「何処でも居酒屋」を実際に、行きつけのカフェのオープンテラスを借りて、「開店」する。キャリーバッグに小型のカセットコンロと調理聴く、調味料を収納、食材を買い出しして、いざ店へ。
カルパッチョ各種、切り干し大根のソムタム風、台湾オムレツ......。レシピも公開している。手ごたえがあったので、最終回は屋外のテラスで天ぷらを揚げた。
コロナ禍を経て、リアル店舗を借りての「何処でも居酒屋」に着地した島田さんの実行力に脱帽である。
「空想居酒屋」
島田雅彦著
NHK出版
950円(税別)