東京都などに新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が再び発令され、飲食店などに営業時間の短縮が要請されている。そんな折、2021年1月12日に発売されたのが、芥川賞選考委員である作家・島田雅彦さんのエッセイ集「空想居酒屋」だ。
国内外の居酒屋をハシゴして40年、包丁を握って35年。文壇一の「酒呑み&料理人」が、ついに自分の理想の居酒屋を「開店」するまでを綴っている。「何処でも居酒屋」を実践してきた島田さんが、さまざまなレシピを公開しているので、家呑みの参考にもなりそうだ。
だが、島田さんは本書を苦境にある全国の居酒屋店主に捧げている。
「空想居酒屋」(島田雅彦著)NHK出版
コロナ禍で作家が「何処でも居酒屋」を実践した!
ネットで連載が始まったのは、2019年4月。自分の居酒屋を開くのが夢だったという著者の島田雅彦さん。実際に経営者になると、仕入れや採算や接客に悩まされるが、空想ならどんな奇抜なメニューも思いのままだ。まずはかつて訪れた「酒場天国」の紹介から始まる。
初回は韓国・全州のマッコリタウンへ。アルミのやかんに入ったマッコリと約30種類のつまみがテーブルにすき間なく並べられるのが全州スタイルだ。キムチ各種、塩辛各種、生ガキ、イイダコの踊り食い、骨付きカルビ......。
要は店の全メニューで、「こんなに食えるわけないじゃないか」と思うが、上澄みだけの爽やかなマッコリは食欲を増進させ、食べてはどんどんマッコリを追加で頼んだ。請求されたのは飲んだマッコリの分だけ。満腹になるまで食べたが、4人でざっと8000円。
残飯が気になったが、肥料になるらしいと聞いて安心した島田さんだった。キムチが多いので発酵も進み、肥料になるのも早いらしい。
島田さんが「離れ」として使っている自宅近くの居酒屋や勤務先(法政大学)近くの中華料理屋、東十条の焼きとんの名店などを紹介している。ただのお店の紹介かと思ったら、そうではなかった。
連載3回目で「臨時居酒屋の極意」と題して、出先の野外で「何処でも居酒屋」を挙行したエピソードを披露している。講演で高知へ。まっすぐ帰るのがもったいなくなり、延泊し、室戸岬へ行った。途中、100均ショップで、包丁、バーベキュー用の網、炭、調味料などを調達し、鮮魚店で鮎、トビウオの干物、カンパチなどを仕込み、キャンプ場へ。一日限定の野外居酒屋が実現した。
最近、「千ベロ(1000円でベロベロに酔えること)」で有名な東京・葛飾区立石の立ち食い寿司屋の話から、ニューヨークやベルリンで食べた寿司のことへ飛ぶ。「シャリは骨、ネタは肉、醤油は血である。お釈迦様の聖体をありがたくいただく儀式が寿司には含意されている」と、蘊蓄を述べている。