携帯電話大手3社、NTTドコモ、au(KDDI)、ソフトバンクの低料金新プランが出そろったことで、「安さで勝負!」をしてきた格安スマホがピンチに陥っている。 そんななか、格安スマホの「mineo」(マイネオ)が料金を最大で6割も引き下げるという思い切った新プランを発表した。
しかし、ネット上ではイマイチ盛り上がらない。ここまで格安スマホ会社を追い詰めた武田良太総務相に対する批判が巻き起こっているのだ。
「あなたが携帯大手に圧力をかけたから、値下げをリードするはずだった格安スマホが淘汰されそうになっている。結果的に大手の寡占が起こるのではないか」
という怒りの声だ。
当初は大手と格安スマホを競争させるはずだったのに
こうした格安スマホ会社が大手によって淘汰されている実態を、ケータイジャーナリストの石野純也氏が、インタネットニュース「ITmedia Mobile」の中のコラム「Mobile Eye」(2021年1月23日付)、こう伝えている。
「大手3キャリアの料金値下げは、MVNO(格安スマホ会社)の経営に大きな打撃を与える可能性がある。20GB前後の中容量ではahamoやpovo、SoftBank on LINEより料金水準が高くなっているうえに、MVNOが得意とする小容量プランも、UQ mobileやY!mobileの値下げにより価格優位性がなくなりつつある。オンライン専用の20GBプランができたことで、玉突き的にサブブランドの料金が下がり、MVNOのすみ分けが難しくなった格好だ」
石野純也氏によれば、MVNOの伸びにブレーキがかかったのは2017年ごろから。大手キャリアの傘下に入るMVNOが増えたのだ。独立系MVNOと言えるのは(インターネットイニシアティブの)「IIJmio」と「mineo」の2ブランドくらいになり、上位MVNOの大半が、純粋なMVNOとは呼べなくなっている状況だという。
ここに追い討ちをかけるのが、今回の大手キャリアの料金値下げだ。MVNOは、ユーザーが帯域を占有しがちな大容量プランを得意としていなかったこともあり、現時点ではほとんどの会社が対抗策を発表できていない。
「そのため、20GB前後の大容量プランでは、MVNOより大手の方が低料金という逆転現象が起こっている。たとえば、IIJmioはファミリーシェアプランが12GBで3260円。5分間の音声通話定額がつかない点で条件が同じになるKDDIのpovoより8GB容量が少なく、料金は780円高い。これでは、MVNOで大容量プランを選ぶユーザーがいなくなってしまう」
格安スマホ会社の弱点は、料金が安いのはいいが、通信速度が遅いこと。石野純也氏がこう指摘する。
「(大手の傘下の格安ブランドは)MVNOとは異なり、帯域を借りているわけではないため、その幅がボトルネックになることもない。ありていに言えば、ユーザーが一斉に休憩を取って通信するお昼休みや、通勤、通学の時間帯に速度が低下しづらい。MVNOの多くが苦しむ、帯域不足に悩まされる必要がないのは大きなアドバンテージだ。通信品質が高いほうが料金は安いとなれば、あえてMVNOを契約する動機はなくなってしまう」
そして、石野純也氏は総務省の行き当たりばったりの政策が、格安スマホ会社を苦しめているとして、こう批判する。
「もともと政府は、市場原理にのっとり、大手キャリアとMVNOとの競争を通じた料金値下げを実現する方針だった。MVNOが低価格を打ち出し、ユーザーがそちらに流れるようであれば、大手キャリアも対抗値下げをせざるをえなくなる。アクション・プランはそのために作られたものだ。ところが、ふたを開けてみると、実際に実行したのは、大手3キャリアへの値下げ要請で順番が逆だった。そのため、本来なら競争を仕掛けるはずのMVNO側が、慌てて対抗策を打ち出している。競争環境をいびつな形にしてしまったという意味でも、大手3キャリアへの直接的な値下げ要請は禍根を残しそうだ」