愛媛県西条市――。県東部に位置し、南は西日本最高峰の「石鎚山」、北は瀬戸内海に囲まれている。温暖な気候のこの街に、10万8000人(2020年12月末)が暮らしている。しかも、少子高齢化が進む中で近年は若い移住者が増えているという。
そんな西条市が、宝島社の「2021年版 住みたい田舎ベストランキング」(人口10万人以上の「大きな市」部門)で、「総合」「若者世代」「子育て世代」「シニア世代」の4部門で1位を獲得。史上初の4冠を達成した。
西条市市民生活部 移住推進課の柏木潤弥さんに、市への移住策について聞いた。
コンセプトは「人をつなぐ」移住サポート
――西条市の良さを教えてください。
柏木潤弥さん「西条市は『水の都』といわれており、水資源に恵まれ、しかもおいしい。一部の地域では、生活水のすべてを「うちぬき」と呼ばれる天然地下水でまかなうことができるほどです。
南は西日本最高峰の石鎚山、北は美しい瀬戸内海、人気のアウトドアアクティビティも充実しています。豊かな自然環境と、由緒ある寺や名湯。名産の『あたご柿』や日本一の生産量を誇る『はだか麦』など農産物にも恵まれています。また、水の良さから飲料や電気機械などの工場が立地する工業地帯もあります。 合計特殊出生率は全国平均の1.43人を大きく上回る1.75人と四国第1位で、『出産や子育てにやさしいまち』として、若い世代や子育て世代からの評価が上がっています。『チャレンジを応援するまち』として、『人をつなぐ』を重視した移住サポートを展開しています」
――今回、「2021年版 住みたい田舎ベストランキング」で史上初の4冠を達成しました。 すべての世代の支持を得るために、どのような移住施策に取り組んできたのでしょうか。
柏木さん「まず、西条市の知名度を上げるため、首都圏や関西圏のテレビやラジオだけでなく、Webメディアや有名人とコラボしたSNSなどを活用してメディアプロモーションに積極的に取り組んできました。西条市単独の移住セミナーへの誘導、完全オーダーメイド型の無料移住体験ツアーへの誘導と移住を検討する人に向けた導線づくりにも、意識的に取り組みました。今年度(2020年度)からは、全国初となるNTTドコモと連携した、AIを活用したデジタルマーケティングにも取り組み、『西条市』や『移住』に興味があると思われる人に向けて、ピンポイントでインターネット広告を配信しました。完全オーダーメイド型の無料移住体験ツアーでは、観光色を排除し、『人をつなぐ』ことに重点を置いています。
移住を検討する人がイメージしやすいように、移住後の西条市で実際に生活している人との交流を持ち、一組ごとに実施しています。こうした取り組みの結果、過去2年半で44組112人を招待し、約3割にあたる12組33人の移住が決まっています。すべて子育て世代や若い世代で、ツアー後、半年~1年のスピード移住です。
また、体験ツアーだけでなく、西条市まで自費で来ていただき、申し込みされた方には、職員がプロポーザル型で各地案内や人をつなぐ無料アテンドサービスも実施しており、さまざまなケースを想定しながら、移住しやすい流れをつくっています」
――具体的な移住策について、教えてください。
柏木さん「移住後の住まいについては、市内の古民家などの空き家を市のホームページ上で登録し、市内の宅建協会と連携して移住検討者へのマッチングを行っています。現在延べ130件以上が、この『空き家バンク』に登録しています。また、県外からの移住者が空き家を活用する場合は、リフォーム代や、空き家に残っている家財道具の搬出を含め、最大420万円の住宅改修支援事業費補助金を用意しています。さらには、市外からの移住検討者(観光・ビジネス目的の利用は不可)には最大5人一組、1日一組1000円で利用できる『お試し移住用住宅〈リブイン西条ハウス〉』を運営しているほか、公共下水道事業計画区域外の地域では合併処理浄化槽設置などの補助金もあります。市としては、こうした補助金などで資金支援することで、移住しやすさを打ち出しています」
就活生から転職希望者まで幅広く受け入れる
――移住者の仕事や就職先のサポートには、どのような取り組みがありますか。
柏木さん「東京23区在住や通勤者が西条市へ移住。そして、市内の中小企業に就職した場合には最大100万円の支援金で移住を後押ししています。
東京都内や関西圏で実施する移住セミナーでは、多数の人材サービス会社と連携して就職支援や起業・創業支援などを行っています。転職を考えている方には、体験ツアーのときに西条市を代表する企業を訪問して、見学、交流などで深めていただきます。
さらに民間企業とのコラボレーションも積極的で、企業側が『会社見学や会社説明』を、行政が『住宅相談や市内案内』を行うサービスも展開。そのほか、住友重機械イオンテクノロジー株式会社と官民連携による大学生対象オンライン・インターンシップも実施していますし、松山市や西条市内で開催する就職セミナー『就活地方祭』では、西条市への移住相談なども受付けています。
新たな事業の掘り起こしを狙いに、2018年11月には地域観光サービス統括会社の『ソラヤマ いしづち』(第3セクター)を設立。観光産業の創出に取り組んでいます。こうした施策で、就活生から転職希望者までを幅広く受け入れて、働き続けていける環境をつくっています」
――子育て世帯からの評価も高いですね。
柏木さん「出産・子育てしやすいまちづくりを進めています。無料の産前産後ヘルパー派遣や中学生以下の子ども医療費無料化、各地域での子育て支援センターの運営、学童保育を全小学校区で完全実施しているだけでなく、先進的な教育環境の整備にも努めています。それが認められて、日本最高峰のICT教育への取り組みに贈られる日本ICT教育アワードも受賞しました。
また、市民一人ひとりの生活の質を向上させ、健康寿命を延ばすため、運動することや健康診断受診のきっかけづくりとして、スマートフォンのアプリを活用することで市内の店舗で買い物するときに使える「ワクワク健康ポイント」を導入するなど、健康都市実現に向けた取り組みも充実しています」
――実際に、どのくらいの方々が移住しているのでしょう。また、移住者の年齢層や出身地などを教えてください。
柏木さん「市内への移住者数は、2017年度が106人、18年度が289人、19年度が346人と伸びています。50歳未満の若い世代が7割以上を占めていますね。多いのは首都圏や関西圏。最近は西条市の子育て環境や生活環境など住みやすさの評判を聞き、四国内などの近隣からの移住も増えています。
自然環境や子育て環境を重視する方、家族や自分の時間を大切にしたいワークライフバランスを重視する方、自分のやりたいことを実現するために起業する方。また、やりたいことを探すために移住する方も少なくありません。現在のコロナ禍による影響もあり、テレワーカーの移住も多くなっています」
実際に住む人の「生の声」が参考になった
――移住された方々の声をお聞きでしょうか。
柏木さん「ツアーを利用して移住された方は、みなさん『現地の人の生の声』が一番参考になったと話してくれます。そして、今度は自分たちがホスト役になって、移住者を迎え入れたいと考えるようになっていただけるようです。
また、ツアーをアテンドする職員がつないでくれた地域の方が近くにいることが本当に心強いとも話してくれます。愛媛県に親戚も知り合いもまったくいない状況でも、ツアーに参加した人は移住する前から、すでにたくさんの知り合いができて、心強かったとおっしゃっていただけます。温暖な気候に豊かな自然、恵まれた観光資源など、この土地の高いポテンシャルだけでなく、人の温かさを強く感じられる西条市に住んでみて、さらに魅力を感じてもらえたようです」
――移住者を受け入れた地元の方々の声も教えてください。
柏木さん「地域の人たちも、最初は『こんな田舎のどこがいいのだろうか?』『こんな田舎でいいのだろうか?』という半信半疑の対応でした。しかし、移住体験ツアーに関わる地域の人がたくさん増え、それに伴い移住してくる方が増え、そのことをみなさんに報告することで、結果が見えてくると、地域の人たちも手応えを感じ、さらに協力的になってきました。
今では『住みたい田舎全国1位』ということに大いに期待感を持ち、そのことを誇りに思ってくれる人もどんどん増えています。地域や学校をたくさんの子どもたちの声で元気にしてほしいと強く願っています」
――今回、史上初の4冠を達成した、その理由はどこにあるとお考えですか。
柏木さん「先輩移住者さんや移住相談員さん、学校関係者、地元企業や農家さん、飲食店さんなど街ぐるみで移住者の受け入れを進めてきました。それにより、移住者が移住者を呼び込む好循環も生まれており、『チーム西条』がみんなでつかみ獲った全国1位! であると考えています」