新型コロナウイルスの感染拡大で、一気に普及したテレワーク。2度目の緊急事態宣言が発出されるなど、コロナ禍の出口が見えず、この先、ますます導入が進むと見込まれる。そうした環境で欠かせないツールがメール。ビジネスパーソンには、いっそう「わかりやすいメールを書く力」が求められる。
本書「テレワークで人を動かすリーダーのメール術」は、実例を豊富に盛り込まれ、わかりやすいメールを書くコツを身につけるための近道となる一冊だ。
「テレワークで人を動かすリーダーのメール術」(吉田幸弘著)秀和システム
「話す・聞く」だけでは不十分
著者の吉田幸弘さんは、人財育成コンサルタントで、上司向けコーチとして活躍するコミュニケーションデザイナー。大学卒業後、大手旅行会社などを経て外資系企業へ転職。周囲とうまくコミュニケーションが取れず降格人事にあったが、人の勧めで学んだ「交渉術」を使って営業成績を改善してマネジャーに再昇格を果たした。
そうした経験を生かして2011年1月に独立。経営者や中間管理職向けに、人材育成、チームビルディング、売上改善の方法を中心としたコンサルティング活動を行っている。
コロナ禍でビジネスパーソンらの働く環境が、テレワーク化など激変するなか、吉田さんはあることに気が付いた。それはZoomなどのオンライン会議のツールが普及したことで「話す・聞く」のコミュニケーションに力を高めていこうとするリーダーはいても「『書く』コミュニケーションにまで力をいれているリーダーは少ないのが実情」ということ。
「『書く力』を身につけるだけでも、リーダーとして大きなアドバンテージになるのは間違いありません。とくにこれからは、より『書く力』が求められていくでしょう」
と見越して、そのサポートに本書を上梓した。
「短いほうがいい」とは言えない
本書で、ビジネスリーダーが書くメールとして最も求められるスキルの一つは「ヒューマンスキル」。ヒューマンスキルは、米ハーバード大学教授で経営学者のロバート・カッツ氏が提唱した、相手や周囲と良好な人間関係を構築し円滑なコミュニケーションを実現するスキルだ。
著者によると、現代は時短が強く意識され、メールを仕上げるにも一定の仕事時間を割くことから「短いほうがいい」という意見がある。極端な場合では、「1行でもいい」という声も珍しくない。しかし、メールもコミュニケーションであり、ヒューマンスキルの観点からは「推奨していない」と著者。
「外部のお客様に送る際は、あいさつ文は必ず入れておいたほうがいい。時間をムダにしたくないと考える方もいるかもしれませんが、それ以上に『礼儀がなっていない』と冷たい印象を受ける方のほうが多いでしょう」
このことは部下とのメールのやりとりでも同様だ。
「コロナ禍でテレワーク化が進み、より相手の表情がみえなくなりました。そんな中でメールを使うのですから、文面に表情を出すために、意識的にねぎらいや感謝の表現をいれましょう」
もちろん、ヒューマンスキルを重視するあまり、長々と書けばいいということはない。「メールは長さより『ビジュアル』が大事」というのが、ヒューマンスキルの次に求められることだ。
文字の詰まったような「黒すぎる文章」を避け、スペースを程よく配した「白と黒のコントラストの効いた文章」を心がけよという。
見た目が悪いと読まれない
たとえば、国語辞典のコピーを渡されて「読んでおいてください」といわれても、なかなかすらすらとは読めない。それと同じように「黒すぎる文章」に向かっては注意して読む気にならず、まして、毎日メールの洪水のような状態のなかにいるビジネスパーソンなら、斜め読みするのが精一杯。そして「『黒すぎる文章』を斜め読みすると、大切な情報を読み飛ばしてしまったり、聞かれた質問に返信し忘れたりする可能性も出てくる」のだ。
「『あんなにきちんと書いたのに、なんで部下は読んでないんだろう』と悩んでいる方は、おそらく『きちんと書きすぎ』なのです」
著者はこう指摘し、「読みにくい黒いメール」と、それを「読みやすい白いメール」に翻訳したものを対照して掲載。白いメールでは、必要に応じて箇条書きを使うなど、ひと目で違いがわかる。
本書では、こうした実例を豊富に盛り込まれているほか、リーダーとしての文章力や語彙力をアップするための方法なども紹介。文章の構成の方法や語彙を増やすことについては、書くことに以外のコミュニケーションにも使えそうだ。
「テレワークで人を動かすリーダーのメール術」
吉田幸弘著
秀和システム
1400円(税別)