アクサ生命保険の代表取締役社長兼CEO、安渕聖司さんは4冊の本を持ってインタビューに現れた。
その中で、ひときわ異彩を放つのが、1冊の大きく分厚い原書。マイケル・ポーター著「COMPETITIVE STRATEGY(競争戦略論)」だ。
安渕さんの人生を、大きく変えた本だという。
ポーターと共にあったビジネスの道
――「競争戦略論」との出会いは、どういうきっかけでしたか。
安渕聖司さん「三菱商事に籍を置いた1988年からの2年間、ハーバード・ビジネススクールに留学しました。1年目の後期にマイケル・ポーター本人のクラスで直接教わることができました。多くのケーススタディで、産業と競争、企業の戦略、何より物事を分析・評価するフレームワークを学びました。
1週間に13のケーススタディを議論するというハードなスケジュールの中でしたが、ポーター教授のクラスには特に力を入れ、予習だけではなく、しっかり復習してメモをつくったおかげで、このコースでの成績はトップ10%に入り、無事にMBAを修了する力になりました」
――その後の仕事にも役に立ったのでしょうか。
安渕さん「卒業直後の1990年から、三菱商事でM&Aのアドバイザリーという新しいビジネスを担当しましたが、ポーター教授の授業で深く学んだおかげで、顧客である企業の業界における立ち位置を含め、戦略を効果的に分析し、打ち手を提案することが出来ました。また、1999年、三菱商事が投資した、米投資ファンドのリップルウッドの日本法人立ち上げにかかわり、転籍。その後移ったUBS証券やGEキャピタルでも、戦略としてM&Aを積極的に活用しましたが、戦略分析のフレームワークはとても役に立ちました」
――現在は、アクサ生命保険にいらっしゃいますが、今もポーターの影響はありますか?
安渕さん「ポーターはその後、進化しました。企業が本業の強みを活かして、社会的課題の解決を目指すことで、価値を創造しようという『共有価値の創造(CSV)』という考え方です。アクサは『すべての人々のより良い未来のために。私たちはみなさまの大切なものをお守りします』というパーパスを掲げています。私たちは、生命保険会社としてお客さまのライフマネジメントに寄り添い、安心をお届けし、社会の持続的な発展をサポートするという重要な役割を担っています。お客さまである中小企業経営者のみなさまには商工会議所や自治体、全国健康保険協会の支部など、地域のステークホルダーと連携し、『健康経営』の導入や実践支援を行うほか、NGOやNPOと協働し、減災教育などの地域社会の強靭化やソーシャルインクルージョンなど、さまざまな社会的課題に向き合ったプログラムを実行しています。ポーターの言うCSVを推進し、社会の持続性を高め、長期的な価値を創造する存在でありたいと考えています」