本書「誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命」は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をわずか数年でV字回復させたことなどで知られる日本を代表するマーケター、森岡毅さんよる最新刊。多くの人は「特別な人しかリーダーになれない」と刷り込まれたように思い込んでいるが、それが真実ではないこと示すために筆をとった。
「リーダーシップは意図的に経験を貯めることで身につけられる後天的なスキル」であり、だれもがリーダーになれる可能性を秘めているという。
新型コロナウイルスによる危機を目の当たりにして、その打開のためには、適宜リーダーが現れる必要があると痛感。「『リーダーシップ』の身につけ方」の発信を思い立った。「一度しかない人生を、自分自身が「やりたいこと」を実現させる人生へとシフトチェンジさせたい」と考えている人に読んで欲しいという。
「誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命」(森岡毅著)日経BP
日本独特の「社会的恐怖」がある
著者の森岡毅さんは、新型コロナウイルスの問題にまつわる人々の行動を支配している本質を「恐怖」であると喝破する。コロナがもたらしている災厄に対して本能が反応している「恐怖」は主に3種類。一つは「生命の恐怖」であり。二つめは、自分たちの収入や生活がどうなるのかという「経済的恐怖」。この二つは世界中で共通している。
三つめの恐怖は日本独特といえるものだ。「自分が責められること」を極度に恐れる「社会的恐怖」。「日本ではこれが本当に厄介。ウイルスを実力以上に暴れさせ、今でも現在進行形で経済を不必要なまでに破壊し続けている」という。森岡さんがリーダーシップの必要を痛感したのはとくにこの恐怖をコントロールしなければならないと思ったからだ。
例として示されているのは、2020年4~5月の緊急事態宣言時の「『パチンコホール』への不当な仕打ち」。クラスターが出たということがないにもかかわらず、市民、マスコミ、自治体の首長らから徹底的に叩かれた。集団ヒステリーの典型的な実例だという。こうしたことを止める力がどこかで働かなければ、みんなで一緒に沈んでしまうと指摘する。
日本では、さまざまなことについて「100」か「0」、つまり両極端のいずれかで判断しがちという。パチンコホールの件にしても、パチンコ店はかつてタバコの煙の充満が常態化したことがあったため、今では換気能力が高い設計基準が課され、来場者のほとんどは無言で「台」に向かっていることなどを合わせて指摘するリーダーシップは現れず、事実を示して冷静に判断しようという動きはなかった。
ギリギリの正解を見つけるリーダーシップを
2020年4~5月の緊急事態宣言時、森岡さんが再建にかかわったUSJも東京ディズニーリゾート(TDR)も、すぐさま臨時休園になった。
「巨大パークの内情をよく知る私には、社会的使命の放棄があまりにも早すぎると思いました」
と森岡さん。「私ならばあんなに早くは閉めません」
「TDRもUSJも最大手なのですから、自分を守ることだけでなく、社会全体への影響を考えるべきです。100か0ではない、その間のギリギリの正解を見つけるリーダーシップをぜひ発揮していただきたかったです」
森岡さんがこう振り返るのも、次のようなことがあったからだ。
USJが休園になったあと、森岡さんのマーケティング会社が支援するテーマパーク「ネスタリゾート神戸」は営業を継続していた。すると、「TDRやUSJが閉めているのに、どうして閉めないんだ」という声が攻め寄せてきたという。
ネスタリゾートの施設はほとんどが屋外にあって、「密」になりにくい科学的根拠に基づいての営業継続だったが、そういうことについては聞く耳を持たない集団ヒステリーに襲われた。
コロナ禍でのリーダーシップ不在の弊害は、対面授業をストップし続けた大学、春だけではなく夏も中止した高校野球の甲子園大会にも及んだと、本書は指摘する。
コロナ禍の「被害」は、その不在が影響した可能性があるリーダーシップ。本書では、「日本人のリーダーシップはなぜ育たないのか」についても検討する。
そして、そのうえでリーダーシップの育成について解説、「人付き合いがとても苦手」という著者自身のリーダーシップをめぐる「悪戦苦闘」が具体的に述べられ、スキルを身につけるプロセスがリアルに迫ってくる。
「誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命」
森岡毅著
日経BP
1700円(税別)