地球環境対策に熱心なバイデン大統領の出方に注目
一方、「バイデノミクス」によって日本は恩恵を受けるかもしれないが、「油断は禁物」と警戒するのが、第一生命経済研究所の首席エコノミスト・熊野英生氏だ。
「バイデン新政権の経済対策の恩恵 ~日本・中国の輸出増加~」(1月15日付)でまず、こう疑問を投げかける。
「1月14日にバイデン次期大統領(当時)が、大型経済対策の概要を発表した。1.9兆ドルの経済対策は、米国の輸入を拡大させ、日本経済にも大きな効果をもたらすだろう。そこには課題もあって、米中対立の次なる展開や自動車の規制・ルールづくりがどうなるかという問題がある。果たしてバイデン大統領は日本の期待にうまく応えてくれるだろうか」
1.9 兆ドルの経済対策は、全国民一律の一人 1400ドル(14万6000円)の現金給付が目玉になっている。これは、昨年12月の一人600ドル(6万2000円)に続く3度目の現金給付だ。12月と今回の合計2000ドル(20万8000円)の現金給付は、個人消費を大いに刺激するだろうとして、熊野英生氏は日本への影響をこう説明する。
「こうした消費喚起策はモノ消費が誘発されて、米国の場合はそれが輸入拡大に結びつきやすい。皮肉なことに、財政刺激が輸入に結びつきやすいからこそ、『バイ・アメリカン』を標榜して米製品を率先して購入する運動を思い起こさなくてはならない。具体的に輸入拡大の恩恵を受けるのは、中国や日本である」
アメリカ国民が、中国と日本の製品をどんどん買ってくれるようになるというのだ。この動きにバイデン大統領はどう反応するかが重要だと、熊野氏は指摘する。
「日本だけではなく、中国も米国の財政刺激の多大なる恩恵を受けることになる。これがトランプ政権下であれば、米中対立を激化させる火ダネになることだろう。その点、バイデン大統領がどう反応するかが注目だ。どのくらい貿易赤字の拡大に目くじらを立てずに、自由貿易のメリットを強調するかに関心が集まる。その対応は、今後の日本にとっても重要だ」
「バイデン政権下で日米関係はどう変わるか。トランプ時代は、難題山積というイメージが強かった。しかし、終わってみれば日本はそれほど打撃を受けたわけではなかった。安倍政権が外交・防衛・経済の各分野でトランプ前大統領の暴走をうまく封じていたこともある。バイデン政権下では、普通の常識的な関係に戻るとされる。しかし、普通の関係が決して『優しい関係』になるとは限らない。文字どおり『油断は禁物』である」
そして、熊野氏は争点が次の3つになるだろう、分析する。
(1)米中関係だ。日本の主要な輸出相手国は中国だ。米中対立で、万一、中国景気が減速すれば打撃は日本に及ぶ。対中制裁関税について、バイデン大統領は現状維持の姿勢だと伝えられる。トランプ大統領側が、2年後の中間選挙、4年後の次期大統領選挙を見据え、バイデン大統領が対中姿勢を軟化させると「弱腰」というレッテルを貼ろうとしているために動けないでいる。
(2)バイデン大統領が、どれだけ自由貿易を重視するのかだ。(1)の米中対立への対応はその試金石だ。肝心なのは、自由貿易体制の再構築のために、TPP の後継になる広域の経済連携をどのようにつくるかが課題だ。
(3)地球環境対策も焦点だ。パリ協定に準じる2050年のカーボンニュートラルに向けた枠組みをどう作るのか。特に自動車は、ガソリン車の販売禁止、EV 車の普及に向けた新しいルールが、バイデン政権では早晩作られるだろう。これまでも、日本の自動車メーカーは米国の排ガス・燃料規制に大きな影響を受けてきた。今後も、米国のルールが世界の自動車産業の新しいスタンダードになっていく可能性はある。
熊野氏は、
「それだけに地球環境対策に熱心なバイデン大統領の出方に注目が集まる」
と結んでいる。
(福田和郎)