KDDI(au)が発表した新携帯電話料金プランを、
「非常に紛らわしい。最安値と言いながら、結局、他社と同じ」
と、2021年1月15日の記者会見でこき下ろしていた武田良太総務相が1月19日の記者会見で一転して、
「通話をあまりしない人にはありがたいプラン」
と称賛した。
武田大臣は、以前にも他の大手携帯会社の新プランを「期待できる」と称賛したかと思えば、「羊頭狗肉」と猛批判に転じた経緯があり、ネット上では、
「情報担当大臣として、お粗末すぎる『情報弱者』だ」
と批判の声があがっている。
「さらなる低廉化が進むいい制度だ。私は評価したい」
KDDI(au)は1月13日、新料金プラン「povo」(ポヴォ)を発表した。データ容量20GB(ギガバイト)で月額2480円(税別)は、先行するライバル2社、NTTドコモとソフトとバンクの同じ容量の料金プランに比べ、月額で500円安い。
ただし、2社のプランは「5分間までの国内通話を何度でも無料」の条件がついていた。しかし、「povo」には「かけ放題」の条件はなく、トッピングとして月額500円を追加すれば、2社と同じく「5分間までの国内通話を何度でも無料」となる。そして、KDDIの高橋誠社長は記者会見で、オプションなどについて説明したうえで、
「(大手3社の中で)最安値を目指した」
と言及したのだった。
これに対して、武田良太総務相は1月15日の会見で、こう批判した。
「非常に紛らわしい。最安値と言いながら、他社と結局同じ値段だ。あたかも国民に他社より一番安いと思わせるやり方は、非常に残念だ」
と、猛批判したのだった。
ところが、武田大臣は1月19日の記者会見で、手のひらを返したように、
「音声通話をあまり利用されない方にとってはありがたい制度」
と、称賛したのだった。
総務相の公式サイトでみると、記者会見のやりとりはこうだ。
記者「KDDIの新料金プランについて、大臣は前回の会見で『紛らわしい』と指摘した。一方で利用者からは、『通話を使っていない人のニーズに応えるもの』と、新プランに好意的な声もある。前回の発言の真意、考え方を改めて聞きたい」
武田総務相「私は、料金プランに対して指摘したつもりはない。さらなる低廉化が進むことは非常に良いことだ。新たなるいろいろな仕組み、一部をオプションにするなど、特に音声通話をあまり利用しない人にとっては非常にありがたい制度ではないかと、私は評価をしたい」
と、最大級の賛辞を送ったうえで、こう指摘した。
武田総務相「私が指摘したのは、(KDDIの高橋社長が)記者会見の席で、すべての業界最安値であるということ、『最安値』という言葉を使ったので、これは消費者に非常な誤認を導くことではないかと懸念した。他社における違うサービスを同一線上に導き、あたかも自分のところだけが一番安いというような発言は、まさに紛らわしくなってくると思うわけです」
と、新プランの内容ではなく、PRの仕方に問題があったとして、こう強調した。
武田総務相「今日まで、料金やサービス内容はわかりやすくしていただきたいと言ってきたが、これからも消費者に誤認を与えないよう、しっかり対応していただくことを希望する。今後も指摘していくべきところは指摘していく」
と述べ、わかりにくい説明をしたのはKDDIの高橋社長のほうだ、と改めてやり玉に挙げたのだった。
以前にも「期待できる」から「羊頭狗肉」と豹変
ネット上では、「誤認したのは武田大臣のほうではないのか!」という批判の声が高まっている。
ITジャーナリストの篠原修司氏はこう批判した。
「PR方法と言いますが、KDDIのプレスリリースを見ても、『povo』のホームページを見ても『最安値』はうたっていない。会見で質問に対して『最安値を目指した』と答えただけで、KDDIが言い出したわけではない。仮に『最安値というPR手法だった』と受け取ったのであれば、それは我々メディアの報じ方が問題だったのだろう。ただ、それはメディアが『このプランは最安値だ』と認識したわけであり、それは消費者の立場からするとわかりやすく、良い方向だと考える。武田総務大臣の釈明はみっともない言い訳にすぎない」
ケータイ・スマホジャーナリストの石川温(つつむ)氏も、こう同調した。
「KDDIはホームページや発表会のプレゼンでも『最安値』とは言っておらず、メディアが『最安値』という見出しをつけただけだ。武田総務大臣は見出しに躍らされて、結果、釈明する羽目になった。一連の騒動は、日本における情報通信産業の発展を促進する立場の総務大臣が『情弱』(編集部注:デジタル界で情報を正しく扱えない人のことを指す『情報弱者』の略称)で、国民とズレた感覚を持っていると取られかねない危険な発言だ。もう少し慎重になってもらいたいと願うばかりだ」
また、こんな批判が相次いだ。
「総務大臣なのに無知なのか、あるいは内容を確認していないのか。武田氏は『ahamo』発表以前の昨年11月にも豹変している。ソフトバンクが『Y!mobile』、KDDIが『UQ mobile』のサブブランドでの新プランを発表した後に、『羊頭狗肉』と猛批判した。しかし、じつは新プラン発表直後には、『これで競争が進むことを期待できる』とか『ユーザーは移行してほしい』とか、称賛する発言をしていたのだ。ところが、『結局、本体ブランドでの値下げではない』と世間のウケが悪いとわかると、急に『羊頭狗肉だ』と批判に転じた経緯がある人物です」
「ろくに内容を確認しないで発言するからこういうことになる。若者たちはLINEなどの通話機能を使っていて、キャリアの電話はほとんど使わない。私自身は若者の2~3倍の年齢なので、一応5分縛りのタイプを契約している。それでもめったにこちらから電話しないから、『povo』もアリかもしれない。トッピングの考え方を理解できれば、非常にメリットがあると思う。と、私の年齢でも魅力を感じるメニュー。それに文句を言うとはねえ」
「普通の電話なんて、以前から宅急便の再配達か、サービスセンターへの問い合わせくらいにしか使わなかった。それらもウェブ化されればそっち使うし、最近はヤマトも佐川も郵便も再配達QRだからありがたい。電話を使わないという選択肢があるのはありがたいことだが、総務大臣にはそんな難しいことはわからないのでしょうね」
大臣は「国民を騙すな」と怒ってくれている
もっとも、ごく少数派だが、武田大臣を擁護する声があるのは確かだ。
「auは今回のプランについて『最安値を目指した』と発言したそうですが、武田大臣の発言がなかったら、auが最安値と勘違いする人は少なくなかったと思います。大手キャリアがよくやる悪質な手法じゃないですか。本当は2980円なのに、家族3人契約時の金額である1980円を前面に出して宣伝したり、頭金と偽って料金を徴収したり。大臣は『国民を騙すな』と怒ってくれているのですよ」
「民間企業に値下げを要求することがよくないみたいな意見が多いが...。通信料はすでに電気・ガス・水道・交通と同じ公共の料金です。政府が口を挟むのは当たり前だ」
「みんなが知らないだけで、公正な経済活動を促し国民の生活と利益を守るため、国や地方自治体が民間企業の価格設定に介入するのは普通によくあることだ。国民生活に重大な影響を与える業種では、表面上は自由でも事実上厳しく介入されているケースが多い。金融、保険、医療、通信、電力、電車、バス、タクシーなど。もはや生活に欠かせない社会インフラのスマホ通信料も同様だ。意外なところでは、銭湯の料金も都道府県によって一律に決められており、経営者が自由に設定することはできません」
(福田和郎)