なぜ、星野リゾート代表は「危機」に強いのか!? 腹の据わった経営マインドを支えたある書簡(大関暁夫)

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星野代表が何度も読み直した書簡「成功の秘訣」

   もう一点、危機における経営マインドとして感心させられたのは、コロナ禍で最も混乱の最中にあったであろう時期に、自社独自で算出した月次の「倒産確率」を社内外に公表したことでした。危機を自ら吐露するこの施策の目的を、星野代表自身が説明しています。

「現状のリスクをわかりやすく社員に説明し共有することで、倒産確率を下げて生き残るための正しい理解を得、全社員の協力と努力を喚起することが目的。皆の努力の甲斐あって、6月に40.1%もあった倒産確率は8月には18.3%にまで下がりました」

   このような有事に動ぜず、企業理念を重視した施策の徹底や、あえて危機的状況を包み隠さず社員と共有できると行動には、経営者として異常なほど危機に強いという資質を持ち合わせている印象を強くさせられました。

   このような経営者としての星野代表の資質の根源には何か拠り所があるはずだと思い、ネット検索を駆使して、さまざまなインタビュー記事や同社をとりあげた特集記事を読み漁り、ひとつの興味深い話に行き当たりました。

   それは、氏の実家の星野家が明治のキリスト教思想家、内村鑑三氏と縁があり、内村氏が事業家であった星野代表の祖父に自らしたため、送ったという「成功の秘訣」なる書簡の存在です。その書簡は10項目からなるごく短い書簡ですが、星野家では家訓に近い扱いとして伝えられ、星野代表もさまざまな局面で読み直しては自らの経営を見つめ直しているといいます。

   「成功の秘訣」の内容は、以下のとおりです。

一、自己に頼るべし、他人に頼るべからず。
一、本を固うすべし、然らば事業は自ずから発展すべし。
一、急ぐべからず、自働車(原文ママ)の如きも成るべく徐行すべし。
一、成功本位の米国主義に倣ふべからず。誠実本位の日本主義に則るべし。
一、濫費は罪悪なりと知るべし。
一、能く天の命に聴いて行ふべし。自から己が運命を作らんと欲すべからず。
一、雇人は兄弟と思ふべし。客人は家族として扱ふべし。
一、誠実に由りて得たる信用は最大の財産なりと知るべし。
一、清潔、整頓、堅実を主とすべし。
一、人もし全世界を得るとも其霊魂を失はば何の益あらんや。人生の目的は金銭を得るに非ず。品性を完成するにあり。

   概要を簡潔に説明すれば、

他人に頼るな、本業を大切にしろ、なるべく急ぐな、誠実本位でいけ、浪費をするな、運は天に任せよ、社員は兄弟としてお客は家族として扱え、誠実で得た信用は財産と思え、清潔・整頓・堅実を守れ、人生の目的は金もうけではなく品性を完成させることである

との内容です。

   星野代表がどのようなリスク局面にあろうとも動じずに、冷静な判断の下で経営者としてのリーダーシップを発揮している根源はこの書簡の教えにあったのだと、非常に腹落ちよく納得を得た次第です。

   いつまで続くともわからぬコロナ禍のこの情勢下で、経営者が弱気になればその段階で事業は終焉に向かってしまうかもしれません。厳しい経営環境に動じない星野代表の拠り所である内村鑑三氏の書簡は、この厳しい時期をも胸を張って乗り切る経営者のみなさんのヒントになるのではないでしょうか。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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