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「ベッド大国」日本医療の「不都合な真実」とは

日本の病院は「ベッド大国」といわれるが
日本の病院は「ベッド大国」といわれるが

   さらに構造的な問題があると指摘するのは、医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏だ。「文藝春秋」(2021年2月号)の「医療資源世界一 日本だけなぜ医療崩壊が起きる」が、日本医療の「不都合な真実」をこう書いている。

「日本の医療制度に欠けているのは、病床数でも、医師数でも、看護師数でもない。臨機応変に対応する『機動性』である」

   機動性には「縦の機動性」と「横の機動性」があり、たとえば「縦の機動性」ならスゥーデンではICU病床数を、感染者の増減に合わせて臨時に増やしたり、減らしたりした。これは当然だ。感染症とはドッと押し寄せて、ドッと引いていくものだからだ。ドイツ、アメリカでもコロナ対策病床を随時増減させた。

「感染者が大幅に増加すれば、緊急ではない手術を延期し、ICUや看護師等の医療資源をコロナ病床に配置。波が落ち着けば元に戻す。一方、日本ではまったく対応できなかった。コロナ病床全体もゆっくり増えていくだけで、機敏に減らすことができなかった。これほど硬直した医療体制では、ドッときてサッと引くパンデミックに対応できるはずがない」

   「横の機動性」はどうか。これは医療スタッフや患者を臨機応変に「横」、つまりほかの医療機関に移動させることだ。たとえば昨年12月、旭川市が医療崩壊だといわれた。患者の少ない北海道各地から旭川に医療スタッフを回せば、すべて解決できた。さらに、近隣の県を見ると秋田県に余裕があった。秋田県に患者を搬送すればよかったのだ。しかし、横の連携ができない事情が日本医療にある。それは、民間病院同士の競争原理が災いしていると、森田氏は指摘する。

「日本の病院は8割が民間病院である。しかも機動性が低い中小病院が多い。それらの病院のほぼすべてが『満床』を目指して経営されている。国の医療費抑制方針から、診療報酬が低く抑えられているので、満床にして患者数を稼がないと経営を維持できない。ビジネスの世界でいう『薄利多売』の世界観が染みついているのだ。満床にするため、病院は患者獲得競争に奔走する。こうして地域の病院間は患者獲得のライバル関係になる。それに常に満床、もしくはそれに近い状態だから、動きようがないのが現実だ」

   たしかに、これでは地域の医療機関が機敏に連携し合う「横の機動性」など望むべくもないだろう。そもそも国や地方自治体は民間病院に対し、

「2週間でワンフロアすべてをコロナ病棟に転換しなさい」
「隣の県で看護師が不足しているから看護師20人を派遣しなさい」

などと、直接命令を下すことはできない。

   だからこそ政府は、こうした構造的な問題を避け、単刀直入に協力を拒む民間病院に対し、感染症改正案で「名前を公表する」という脅しをかけようというわけなのだ。

   森田氏は記事の最後をこう結んでいる。

「最前線の現場スタッフの疲弊に感謝のメッセージを贈ることも大切だろう。彼らが本当に求めているのは、感謝のメッセージでも、表面的な法整備でも、場当たり的な対策でもない。真に国民の命を守ることができる、誰かの犠牲で成り立つのではない無理のない医療システムだ」

(福田和郎)

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