政府が国民に「前科がつくぞ」と脅すとは...
毎日新聞(1月19日付)「コロナ特措法政府改正案 罰則で実効性苦慮」も、政府と与党の苦悩をこう指摘する。
「政府はもともと、強権批判を招きかねない罰則強化に及び腰で、特措法などの改正論議はコロナ収束後に行う方針だった。ところが、感染再拡大を受けて各地の知事から対策の徹底には『罰則と補償』の法令への明記が必要だとの声が高まった。ただ、急ごしらえの改正案には粗さが目立つ」
その「粗さ」の象徴として各紙とも問題視するのが、特措法改正案で新たに設けられた「まん延防止等重点措置」だ。
これは、緊急事態宣言を出さなくても機動的な対応がとれるようにするもの。対象地域の知事は、時短の要請・命令など、緊急事態宣言のほぼ同じ私権の制限を伴う対策をとることができる。
先の朝日新聞がその際、罰則の線引きの「あいまいさ」をこう報じる。
「『まん延防止等重点措置』の対象は飲食店に限らない。前科にならない行政罰とはいえ、命令違反に30万円以下の過料を導入する。ただ、規定はあいまいな部分が多い。重点措置の実施は、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼす恐れがあるが、(どんな業態を対象にするかなど具体的な要件は)『政令で定める』と、事実上政府の裁量に委ねられている」
もう一つ、各紙が問題視するのが、感染症法改正案の罰則規定だ。まず、入院勧告を拒否した感染者に「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を科すとした。これは前科が付く刑事罰で、特措法改正案の前科が付かない行政罰より重い。
「他の人を感染・死亡させる危険があるから、より悪質だ」(首相周辺)というのが政府の立場だという。 また、保健所などの感染過程の調査に協力しなかった人にも「50万円以下の罰金」という刑事罰を科す。
こうした罰則に対しては、日本感染症学会など136の学会でつくる日本医学会連合などが1月14日、反対声明を発表した。
その中で、
「入院を拒否する感染者には、措置により阻害される社会的役割(たとえば仕事や介護、子育てなどの家庭役割の喪失)、周囲からの偏見・差別などの理由があるかもしれません。現に新型コロナ患者・感染者、あるいは治療にあたる医療従事者への偏見・差別があることが報道されています。これらの状況を抑?する対策を伴わずに、感染者個?に責任を負わせることは、倫理的に受け入れがたいと言わざるをえません」
と訴えている。
日本医学会連合の門田守人会長(堺市立病院機構理事長)は東京新聞(1月19日付)の取材に、こう憤りを語った。
「罰則を恐れて、検査を受けない人や検査結果を隠す人が増え、感染抑止がかえって難しくなると想定されます。今必要なのは、感染を広げないために外出などを自粛するよう求めること。打つべき手をすべて打っていないのに、順番が逆だ。コロナ患者や医療関係者への差別が起きています。罰則より、国民の分断を生む差別の規制が必要です」
甲南大学法科大学院の園田寿教授(刑事法)も、同紙でこう批判した。
「罰則で被害を抑えようとするのは、威嚇による犯罪抑止に力点を置いた古い考え方。政府が国民に言うことを聞かせるために『前科がつくぞ』と脅している。住民を監視する『自粛警察』の動きが強まりかねない。また、罰則が実現し逮捕したとして、感染している容疑者をどこでどうやって勾留し、取り調べるのか」
と疑問を投げかけた。
(福田和郎)