厚生労働省は2021年1月8日、2020年の「高年齢者の雇用状況」(2020年6月1日現在)を発表した。
少子高齢化に伴う人手不足などで、企業は高齢者雇用に前向きだ。2020年は新型コロナウイルスの影響で外食産業をはじめ、企業活動が制限されるなどで人手不足感がやや後退したものの、それでも企業の高齢者雇用はほぼ100%の企業で実施されている。
その様子を、もう少し詳しくみてみよう。
65歳までの雇用99.9%の企業が実施
厚労省の「高年齢者の雇用状況 2020」は、65歳までの高年齢者の雇用状況について、従業員31人以上の企業16万4151社の状況をまとめた。対象は中小企業(31~300人規模)14万7081社、大企業(301人以上規模) 1万7070社。
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高齢者雇用安定法)では、(1)定年制の廃止(2)定年の引上げ(3)継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)の導入――により、65歳までの雇用を定めている。
実施済企業は16万4033社で99.9%。前年比0.1ポイント増加した。企業規模別では大企業が1万7069社で99.9%(前年から、変わらず)、中小企業が14万6964社で99.9%。前年比0.1ポイントの増加となった=表1参照。
内訳は、「定年制の廃止」が4468社で2.7%(前年比変わらず)、「定年の引上げ」が3万4213社で20.9%(同1.5ポイント増加)、「継続雇用制度の導入」が12万5352社で76.4%(同1.5ポイント減少)だった。
「継続雇用制度の導入」では、「希望者全員を対象とする65歳以上の継続雇用制度を導入」が9万3333社で74.5%(前年比1.5ポイント増加)、「基準該当者65歳以上の継続雇用制度を導入(経過措置適用企業)」が3万2019社で25.5%(同1.5ポイント減少)。経過措置適用企業とは、継続雇用制度の対象となる高年齢者の基準について労使協定を締結することで定めている企業をいう。
60歳定年の企業で、36万3027人の定年到達者のうち、継続雇用された者は31万267人(構成比85.5%で、このうち子会社・関連会社などでの継続雇用者は1万2932人)、継続雇用を希望しない定年退職者は5万2180人(同14.4%)、継続雇用を希望したが継続雇用されなかった者は580人(同0.2%)となっている。
一方で、経過措置適用企業における上限年齢に到達したことによる離職者継続雇用の終了が6万7547人もいる。
65歳定年の企業は3万250社と前年比2537社増加し、全体の18.4%(前年比1.2ポイント増加)を占めた。定年の引き上げにより定年が66~69歳の企業は1565社、70歳以上は2398社だった。
若者の雇用が悪化しているのに......
都道府県別でみると、66歳以上で働ける制度がある企業の割合は、多いほうから秋田県48.1%、大分県43.4%、島根県42.5%、宮崎41.2%、岐阜41.0%の順となっている。高齢者雇用に積極的というよりも、むしろ少子高齢化により労働力が不足している県で、高齢者雇用が進んでいる姿が浮き彫りになっている。
このように、高年齢者雇用安定法があることで、確かに高齢者雇用は進んでいる。しかし、制度があるだけでは、実際に働けている高齢者の状況はわからない。特にコロナ禍によって、雇用は不安定化しており、失業者が増加している。
厚労省の「高年齢者の雇用状況」は2019年7月から2020年6月までの状況をまとめたもので、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前の2019年からの65歳以上の失業者数を総務省の労働力調査で見た=表2参照。
65歳以上高齢者の失業者数は2019年12月の12万人をボトムに、前回の緊急事態宣言が発令された2020年4、5月と18万人に増加している。その後、緊急事態宣言の解除により7月にかけて減少したが、8月からは再び増加し10月には20万人に達した。
労働力調査が11月分までしか発表になっていないため、その後の動向は定かではないが、例年年末にかけて失業者は減少する。しかし、年明け早々には再び緊急事態宣言が発令されており、昨年の緊急事態宣言の発令時のように、失業者が増加する可能性は高く、警戒が必要だ。
さらに、高年齢者雇用安定法の改正により、今年4月から企業には定年年齢を65歳から70歳まで引き上げる努力義務が課される。企業は、定年の廃止、70歳までの定年の引き上げ、70歳までの継続雇用制度の導入などに努力が求められる。
だが、コロナ禍にあって、若年層の雇用自体が悪化している現状で、企業が努力義務の70歳までの雇用を実施できるのか――。それは非常に不透明だろう。
新型コロナウイルスの感染拡大は雇用を大きく蝕んでいる。(鷲尾香一)