新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がるなか、いったい今夏の東京五輪・パラリンピックは開けるのか?
米国の有力メディア、ニューヨーク・タイムズとブルームバーグが相次いで「東京五輪に暗雲」と報道をしたことで、一気に「中止」の動きが加速している。
自民党では派閥領袖クラスも
「もうダメ。中止となったら菅政権が持たない」
を公言し始めた。
NYタイムズ「五輪は日本人に支持されていない」
「Hopes for Tokyo's Summer Olympics Darken」(夏の東京五輪の希望は暗くなった)
こう報じたのは、2021年1月15日付電子版の米紙ニューヨーク・タイムズだ。同紙は前文で、こう書いた。
「東京五輪の計画は、日ごとに不透明になっている。新型コロナウイルスの感染拡大が日本および欧州、南北米大陸など全世界で増加するにつれて、東京と国際オリンピック委員会(IOC)の役員たちは、安全なゲームを開催することは実行不可能であることを認め始めた。オリンピックが、パンデミックの頂点を祝う世界的な祝賀会の場と化すおそれがあり、IOCは、第二次世界大戦後初めてオリンピックをキャンセルせざるを得なくなる可能性がでてきた」
同紙が中止の可能性が高まった理由の第一にあげるのが、日本国内の五輪開催に反対する世論の高まりだ。
「主催者は、一連の安全対策を講じて国民に受け入れられる方法で大会を開催する計画を提供しようと試みてきたが、今月行われた日本の公共放送局NHKは、回答者の約80%が中止、または延期を求めている。昨年10月の調査では中止、または延期は70%だった」
第二に、日本政府の閣僚の中に公然と開催に懐疑的な発言する者が出始めたこと。
「内閣のメンバーである河野太郎氏(行政改革担当大臣)がロイター通信の取材に、『(開催か中止か)どちらの方向にも進むことができる』と述べたため、当局の『必ず開催する』という公式見解が一挙に壊れた」
また、IOCの中にも開催に否定的な発言する者が現れた。
「最古参のIOC委員であるカナダのディック・パウンド氏が、英BBC放送の取材に対し、『大会が行われるという保証はない』と語った」
そして、同紙が何よりも「大会開催中止」の大きな理由にあげているのが、世界的なワクチン供給の遅れである。
「東京五輪組織委の森喜朗会長は1月12日のスピーチで、組織委メンバーを安心させようとした。『春は間違いなく来る。長い夜の後、間違いなく朝が来る。そう信じて最後まで頑張っていこう』。だが、ワクチンの展開は予想よりも遅く、人類の多くは夏の開催までに接種されないままだ。日本でも2月下旬までワクチン接種を開始する予定はない。(全国民に接種されるまで)数か月以上かかるかもしれない」
組織委はもともと、海外から来る約1万人のアスリートや、数万人のコーチ、関係者が大会開始前にワクチンを接種することは計画に織り込んでいない。橋本聖子五輪担当相は、主催者が「ワクチン接種なしで安全・安心の大会を開催できるよう、必要な検査や追跡管理などの総合的な感染防止対策」を分析していると記者団に伝えた。
アスリートでさえワクチン接種体制が不十分なのに、世界中からやってくる観客はどうするのか。観客に観戦を許可するのかさえまだ明らかではないと、同紙は疑問を投げかける。
医師・看護師より先に選手がPCRを受けられる理不尽さ
米の経済情報総合ニュース「ブルームバーグ」(1月13日付)「東京五輪開催に再び暗雲、医療専門家の意見分かれる―コロナ拡大で」も問題視するのは、ワクチンの供給の大幅な遅れだ。同サイトは日本国内の医療専門家たちから詳しく話を聞いた。
けいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は、ブルームバーグの取材に、
「無理して五輪を開催する時ではない。(五輪のために)スポーツ選手や大会関係者が連日PCR検査を受けているが、医師や看護師は入院患者に接しているのに検査が受けられない。『日本国民を守ること』が優先されるべきだ」
との見解を示した。
そして、ブルームバーグは「東京五輪開催が不確実な理由」として、さらに次の3つを挙げたのだった。
第1に、ワクチン接種を実施し始めた国があるにも関わらず、依然として猛威をふるうパンデミック(世界的流行)が続いていること。
第2に、日本政府が1月に大都市圏で緊急事態宣言を出しているが、日本で依然として感染が高く推移していること。
そして最後の理由として、パンデミックの最中に世界的なイベントを開催することが壊滅的なコロナ拡大をもたらす危険があることを日本の多くの人が心配して、国民の支持を失っていることだ。
こうした米メディアの報道に刺激され、スポーツ各紙も「東京五輪中止の危機」を報じ始めた。東京五輪開催によって、部数拡大や広告費増大を望めるスポーツ紙としては異例の対応だ。
(福田和郎)