「聖地巡礼」の始まり
鉄道がアニメにリアルに描かれるようになる。スタジオジブリの高畑勲の「火垂るの墓」には阪急電車が、「おもひでぽろぽろ」には上野駅や寝台特急が登場した。こうした手法は1995(平成7)年公開の近藤喜文監督作品「耳を澄ませば」に受け継がれ、舞台となった京王電鉄の聖蹟桜ヶ丘駅周辺には多くのファンが集まるようになった。「聖地巡礼」の始まりである。
観光地でもない場所に、突然多くの人が訪れるようになり、鉄道会社も注目するようになった。「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」「けいおん!」などの作品によって、アニメが現実の風景をモデルにすることが定着。知名度の高い鉄道はロケ地のシンボルになり、ラッピング電車の運行や記念乗車券の販売などによって、多くの人を惹きつけるようになった。
著者の栗原景さんは「鉄道は誰もが知っているインフラであり、その地域の特色や時代性、生活を表現するのに適している。その作品がどんな街を舞台にし、どんな人々が生活しているのか、想像しやすくなるからだ」と、アニメと鉄道の関係をとらえている。
そうした中で、2018年に始まった「新幹線変形ロボシンカリオン」は、新幹線を運行するJRグループ5社が全面協力し、H5系はやぶさ、N700Aのぞみ、新800系つばめなど実在の新幹線車両がロボットとなって、謎の敵と戦うというストーリーだ。
長期的に見れば、少子高齢化によって輸送量が頭打ちになることは避けられない。鉄道以外の事業収入を増やしたいというJR東日本がゴーサインを出して、2015(平成27)年、まずプラレールの新商品としてシンカリオンは発売された。すぐにアニメ化を急がず、JR各社と丁寧に交渉し、JR北海道、JR西日本、JR九州、最後にJR東海が承諾。満を持してアニメ化された。
物語には新幹線沿線を中心に全国の駅や町が登場する。全76話にわたってロケハンを行い、各地の風景を正確に再現している。敵である巨大怪物を閉じ込める「捕縛フィールド」を設定。駅や街を破壊しないよう、制作はJRに配慮されている。
子どもだけでなく、大人までをファンにしたコンテンツだ。