いま、ウイスキーが注目されている。酒類全体の販売量が減るなか、日本のウイスキーの販売量は2010~15年の5年間で約1.5倍に増えた。2019年の輸出金額は、08年の約13倍と爆発的に増加した。ビジネスパーソンとして、ウイスキーの知識を身につけておくことは、時代を読み解くことにもなる。
本書「ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方」は、ウイスキーの生産から歴史、嗜み方、さらにビジネスまで、幅広くウイスキーを解説した本である。
「ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方」(橋口孝司著)あさ出版
最初に世に出たのは「ジョニーウォーカー」
著者の橋口孝司さんはホテルバーテンダーから料飲支配人、新規ホテルの開業、運営など26年間ホテルに勤務。2008年からホスピタリティバンク代表取締役に就任。バー開業コンサルティングを手掛けている。また、「ザ・シークレットバー銀座」を主宰している。
ウイスキーの定義は、穀物を材料にして、醸造(糖化・発酵)、蒸留という工程を経て、「木の樽」で熟成したお酒という。さまざまなバリエーションがあり、特徴を理解するには、「生産国」と「原料」の2つのポイントがあるという。
生産国には世界5大ウイスキーがあり、スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本について詳しく解説している。ここでは、ウイスキーの伝統を作った「スコッチウイスキー」と日本のウイスキーについて簡単に紹介しよう。
スコットランドは世界で最も早く、木の樽による熟成を法律化した。1915年に2年間、1916年に3年間の熟成期間を法律で義務づけた。
はじめは大麦麦芽のみを蒸留したモルトウイスキーだったが、産業革命期に連続式蒸留器が生まれ、大麦以外の穀物を使用したクリーンな味わいで高アルコールのグレーンウイスキーを造ることができるようになり、両者を混ぜ合わせたブレンデッドウイスキーが誕生した。
最初に世に出たのは、1860年「ジョニーウォーカー」といわれている。今でも世界ナンバーワン(年間1800万ケース)が、「ジョニーウォーカー」だ。
現在、スコットランドには120を超えるウイスキー蒸留所があり、一大生産地になっている。代表的なのは、ハイランド、スペイサイド、ローランド、キャンベルタウン、アイラ、アイランズの6つの生産地だ。ウイスキー売り場でもカテゴリー分けされていることが多いため、知っておくと参考になる。
日本のウイスキーは「原酒」だけではない
日本のウイスキー造りは、世界5大ウイスキーの中で最も歴史が浅い。サントリーの前身である寿屋が1923(大正12)年、大阪府の山崎に蒸留所を建て、1929(昭和4)年に国産ウイスキー第1号を発売したのが始まりだ。スコットランドでウイスキー造りを学んだ竹鶴政孝氏の存在はあまりにも有名だ。NHKの朝の連続テレビ小説「マッサン」のモデルになった。
日本のウイスキーの売り上げのピークは1983(昭和58)年で、2007(平成19)年には最盛期の18%まで減少した。その後のハイボールブームや「マッサン」のおかげで、シングルモルトウイスキーは品薄になり、販売を停止した銘柄もある。
ウイスキーは熟成期間が必要なため、増産ができないのだ。そのため、「10年熟成」など年数を記載したものは休売となり、12年熟成は出荷制限されて潤沢に出回っていないという。価格も高騰している。
販売が増え、価格も上がり、いいこと尽くめのような日本のウイスキーだが、橋口さんは、「原酒混和率」という言葉を挙げ、問題点を指摘している。
原料から造った蒸留酒を「原酒」と呼び、その原酒が10%以上入っていれば、日本ではウイスキーとして販売できる。スコットランド、アイルランド、カナダでは「原酒」でなければウイスキーと名乗ることができない。
そのため、何が入っているかを見分けるには、ラベルをチャックする必要があるという。
「原材料の項目に『モルト』『グレーン』以外の名称(スピリッツ、醸造用アルコール等)の記載がある場合には、それらのアルコールが添加されているということです」
また、日本の酒税法では、ウイスキーの産地とラベル表記の規定がない。だから輸入原酒が使われていても「ジャパニーズ・ウイスキー」として販売されている。日本洋酒酒造組合は2016年にウイスキーの表示に関する特別委員会を設け、「ジャパニーズ・ウイスキー」の定義化に向けて議論しているが、結論は出ていないそうだ。
ウイスキーの原料となる大麦、小麦、トウモロコシによる違い、香味を出す「ピート」、蒸留、熟成、ブレンドなどウイスキーの生産法についても詳しく解説している。
ビジネスではシングルモルトのハイボールを
そうした蘊蓄も参考になるが、本書が役に立つのは、場面別のウイスキーの選び方を教えているところだ。
取引先と食事したあと、バーに行った場面では、まず1杯目は軽いテイストのシングルモルトのハイボールや水割りを勧めている。少し様子を見ながら、相手の好みを聞き出して、2杯目には少しこだわりのあるシングルモルトをバーテンダーと相談しながら、勧めるといいという。具体的な銘柄も紹介している。
2020年度「ワールド・ウイスキー・アワード」のワールドベスト・シングルモルトウイスキーとして、サントリー「白州25年」が2018年以来再び栄冠に輝くなど、日本の3銘柄が世界最高賞を受賞したという。
高い評価を得ているジャパニーズ・ウイスキーだが、橋口さんは、法律・規定を明確にすることが今後の発展のカギだと指摘する。
ワインについて蘊蓄を傾ける人は多いが、ウイスキーについて語る人は珍しい。あえて逆張りするのも、おもしろいのではないか。
「ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方」
橋口孝司著
あさ出版
1600円(税別)