「お前は復帰するする詐欺やもんな~」
「1人目産んで育休とって、また2人目、3人目って... ホンマ詐欺みたいやな~」
3児のママで長らく育休中の会社員。気の置けない同期の男性たちとオンラインで忘年会を開いた。その最中に同期の男性が放った、冗談とも本音ともつかない発言がナイフのように心に刺さった。
同じ同期の夫も同席していたのに、彼女をかばってくれなかった。彼女はこれからどうやって復帰していけばよいのか。専門家に聞いた。
いまだに根強い「育休は甘え」という企業風土
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルグループの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、今回の「同期の男性から『復帰するする詐欺じゃん』と言われて悔しい」という投稿の話題について、意見を求めた。
――今回の投稿と回答者たちの意見を読んで、率直にどのような感想を持ちましたか。
川上敬太郎さん「投稿者さんの悔しい思いがとても伝わってきました。また、一方で、『復帰するする詐欺』と言われたのが、お子さんたちの前だったことには戸惑いというか怒りを覚えました。8歳と6歳の上ふたりのお子さんは、子どもなりにその意味が理解できているかもしれません。子どもがどう受け取ったかはわかりませんが、仮に冗談であったとしても、大人の無神経で無配慮な発言がお子さんたちを傷つけていなければよいのですが」
――確かに子どもに与える影響は心配ですね。今回の論争の背景には「産休育休」をとった女性に対するフォローの問題があると思いますが、これまでこの問題を調査したことがありますか。
川上さん「政府が育児休業期間を2年に延長することを検討していたころ(2017年3月)、仕事と家庭の両立を希望する『働く主婦層』に、その賛否を尋ねたことがあります。その際、賛成する意見が過半数で、反対意見は少数派でしたが、反対する人の声の中には、育休取得に対して『フォローで大変苦労した』『誰かに迷惑が必ずかかっている』『そんなに休むのだったら、退職するべき』『穴埋めをしなければならないのは不公平』『育休は甘え』など、厳しい意見が見られました」
――やはり、フォローする人たちの反発が根強くあるわけですね。ただ、J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、これまで育休問題を何度か取り上げてきましたが、主に女性同士の確執・軋轢が多かった気がします。今回は男性。しかも気の置けない同期からの「詐欺だ」という発言です。このことについては、どう思いますか。
川上さん「冗談なのか本気なのか、真意はわかりませんが、おそらくは気の置けない同期ならではの軽口なのだろうと思います。お酒も入っていたのかもしれません。ただ軽口とはいえ、同期社員に『詐欺』発言させるような雰囲気が職場内にあるのだとしたら、根深い問題のように感じます。また投稿者さんと同期ということは、それなりに社歴も長いはずです。管理職やそれに準ずるポジションにいる人だった場合、その同期社員が管轄する部署の社員は育休を取得しづらいだろうと思います」
――なるほど。投稿者を批判する意見で多いのは、同期の男性の発言は「周囲の人のホンネを言っている」「あなたは同僚に迷惑をかけている」というものです。このことについてはどう思いますか。
川上さん「『詐欺』発言に賛同する人は、実際に育休取得した社員のサポートで業務量が増えたり、何らかの嫌な思いをしたりした経験があるのかもしれません。それはそれで率直な感情であり、そのように言わせてしまう環境がこれまで多くの企業の中にあったことの現れだと思います。
ただ、それは見方を変えると、育休取得者がいても同僚にしわ寄せが行かない職場であれば問題は発生しないということです。つまり職場の業務設計や人員体制における欠陥であり、本来は社員同士がいがみ合う状態をつくり出している職場自体が問題にされるべきだと考えます。『詐欺』に賛同する人の中に、職場の業務設計や人員体制づくりの権限を有する管理職や経営者が含まれていないことを願います。もし含まれている場合、その人たちは自らが果たすべき責任を棚に上げて、立場が弱い人を上から非難しているように見えます」
同期社員も夫も、投稿者を守ろうと思ってした?
――そのとおりですね。一方、投稿者を応援する声の多くは、「会社の制度を利用しているのだから何の問題もない」「当然の権利だ」というものです。
川上さん「権利を主張することは当然と思いますが、育休取得することで他の社員にしわ寄せがいく職場環境では、どうしても軋轢が生じてしまいます。権利行使が正しいか否かは別として、そのことを頭に入れて振る舞わないと、同僚たちから感情的に反発を受けることはあると思います。投稿者さんの場合は、同僚たちの感情にできる限り配慮したいという思いを携えているからこそ、葛藤しているのだと思います。
ただ本来であれば、そもそもそのような配慮など不要となるような職場であるべきです。おかしいのは、『すみません』と誤って育休取得しなければならない職場であり、必要なのは職場改革です」
――また、非常に多かったのが、「同期の発言はパワハラだ」「なぜ他の同期が問題にしないのか」という批判です。そして、「なぜ、夫はかばってあげなかったのか」という非難も多かったです。投稿者は同期の発言より、反論しなかった夫にショックを受けたとも書いていますね。
川上さん「やはり投稿者さんが所属する会社は、育休取得によって同僚に業務のしわ寄せが生じてしまう職場環境なのではないかと推測します。だとすると、同期社員の『復帰するする詐欺』発言は、冗談っぽくカモフラージュした本音である可能性があります。また、育休取得者に対して厳しい社内の空気を感じている夫としても反論しづらかった可能性があります。
だとしても、投稿者さんの気持ちを考えれば、同期社員の発言は不適切だし、夫にも、その場で反論すべきだという声があるのもわかります。ただ、これも推測の域を出ませんが、同期社員も夫も、投稿者さんを守ろうと思ってしたことなのかもしれません」
「『詐欺』発言なんて冗談と割り切って受け流しては」
――それはどういうことですか。
川上さん「もし投稿者さんに対する同僚たちからの風当たりが想像以上にきつかった場合、他の同僚から本気の感情を直接ぶつけられるより、同期の立場から冗談めかして伝えたほうが、幾分か衝撃が和らげられると考えての発言だった可能性もあると思います。また夫としても、そのような場でムキになって反論してしまえば、夫婦そろって余計に反感を買ってしまうと考えた可能性もゼロではありません。
真意を確かめたいのなら、投稿者さんが直接話すことがよいと思います。特に夫に対しては、あの場でかばってくれなかったことに不満を感じていることをきちんと伝えたうえで、夫の言い分を聞き、わだかまりを解いておいたほうがよいでしょう。そして今度は夫を通じて『詐欺』発言をした同期社員の真意を確認してもらうこともできるかと思います」
――なるほど。投稿者は今後、仕事を続けるうえでどうしたらよいと思いますか。同期との付き合い方も含めて、川上さんならどうアドバイスしますか。
川上さん「もし育休取得がしづらい職場環境や雰囲気があるのであれば、その風当たりの強さがどの程度かにもよってきます。職場復帰しづらいほど感情的反発を受けてしまうようなら、転職も視野に入れたほうがよいかと思います。しかし、そこまでではないのなら、『詐欺』発言などは冗談の範囲と割り切って受け流すことも一つの方法です。
ただ、相当ストレスが溜まってしまうと思われますので、夫を筆頭にグチを聞いてくれる相手を見つけておくなど、感情の捌け口も作っておかないと投稿者さんのメンタルが心配です。また、投稿者さんや夫が管理職として職場体制を構築する側になった暁には、育休取得しづらい風土を改めることにぜひ取り組んでいただきたいと思います」
(福田和郎)