ウィズコロナ時代、あるいはアフターコロナの時代に必要になってくる管理職は、テレワークになっても情報をきちんと流して、部下とコミュニケーションを取り、モチベーションを上げてくれる管理職だ、と本書「9割の中間管理職はもういらない」は、指摘する。
そのような管理職になるためには、どうしたらいいのだろう。
「9割の中間管理職はもういらない」(佐々木常夫著)宝島社
使えない中間管理職はこんな人
著者の佐々木常夫氏は、家族の看病、家事をこなすため、東レの課長時代には毎日18時に退社する必要に迫られた。そこで合理的なマネジメントを編み出し、成果を上げた。2001年に取締役に就任。東レ経営研究所社長、経団連理事などを歴任した。
本書の冒頭で、管理職は「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」か? と書き出している。文化人類学者デヴィッド・グレーバーの同名の著書にふれ、テクノロジーの発達にもかかわらず、仕事が増えているのは、「本来は不必要な仕事、実際には無意味な仕事が作り出されているためではないか」というグレーバーの主張を紹介している。
それらの仕事をしている中間管理職は本当に必要なのか――。佐々木氏は、9割は不要で、残りの1割は必要だという。デジタル化によって、トップの意思を部下に伝え、現場で起こったことをトップに伝えるという旧来の中間管理職の役目は不要になったというのだ。
いらない中間管理職、使えない中間管理職とは、ただ「承認して、報告して、挨拶するだけ」の中間管理職だという。なかには、プレイング・マネジャー的に振舞う人もいるが、佐々木氏は「そういう中間管理職は往々にして、自己顕示欲が強いだけ」で、いらない9割の中間管理職だと、手厳しい。
必要な中間管理職とは、部下のエンゲージメント(個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係)を高めることができる人物だと説明する。
コロナ禍は日本の雇用形態を大きく変える
新型コロナウイルスの流行によって、社会にとって必要不可欠な仕事は「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれるようになった。一方で、あまり役に立っていない中間管理職の存在も明らかになった。雇用形態を抜本的に改革する必要に企業は気がつき始めたのだ。
マクロベース、雇用レベル、働き方レベルの変化を新型コロナウイルスはもたらすと見ている。
マクロベースでは、企業やビジネスシーンの「都市から地方へ」という動き、グローバルな労働移動の鈍化が予想される。
働き方レベルでは、新卒一斉採用のメンバーシップ型の働き方からジョブ型への移行が進むと見ている。ジョブ型になれば、なんのためにあるのかわからない中間管理職ほど、存在が認められなくなる。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進行は、新しい価値の創造(イノベーション)を求めており、それがビジネスの現場を知る中間管理職のミッションだというのだ。
本書の後半では、佐々木氏の体験を踏まえて、必要とされる中間管理職の姿が描かれている。意外だったのは、テレワークが常態化された場合、本当に必要となってくるのは「雑談力」と書いていることだ。雑談は相手の事情を知るのに大切だという。
メールでのやりとりが主流になる中、ほんのわずかでも本題から離れた記述や上司のさりげない気遣いが感じられると、部下はほっとするものだ。本書では、具体的には書いていないが、「雑談力」が大切だ、という指摘は受け止めたい。
時間のマネジメント
仕事と人生のマネジメントを達成するために重要なのは、時間をうまくマネジメントすることだと最後に力説している。
・計画先行・戦略的仕事術として、仕事は発生したときに品質基準を決める、デッドラインを決めて追い込む、本当に使える時間は3割など、をポイントに挙げている。
・時間節約・効率的仕事術として、プアなイノベーションより優れたイミテーションと、過去の優れた知恵の活用、口頭より文書が時間節約などを挙げている。
・時間増大・広角的仕事術として、「全体の数字の大部分は、全体のうちの一部の要素によって生み出されている」というパレートの法則を意識すること。「抱えている仕事を、重要度の高い順に2割こなせば、抱えている仕事の全体量の8割に達する」という。
こうして生み出した時間を何に使うのか? 最後に佐々木氏は、中間管理職のミッションに立ち返り、「部下を使ってうまく成果を上げること」、そのために「部下のやる気を出させて、仕事における喜びを見出せるようにしてあげること」だと定義する。
仕事の効率化の話が多いが、それはコミュニケーションと信頼関係があればこそ、と説いている。
「9割の中間管理職はもういらない」
佐々木常夫著
宝島社
900円(税別)