「全国的に医療崩壊が進んでいる」
一方、計11都府県の緊急事態宣言だけで感染拡大は収まるのだろうか。日本医師会の中川敏男会長は1月14日、記者会見で「医療崩壊が進んでいる」として、宣言を全国に広げること視野に、とこう訴えた。
「全国的に医療崩壊が進んでいます。心筋梗塞や脳卒中で倒れた患者の受け入れ機関が見つからない、がんの手術が延期された、ということが現実化しています。(宣言の対象が)感染の広がりを示すデータがすべて基準を上回ってからというのは手遅れ感が否めません。感染が全国に蔓延して手遅れにならないよう、早めの全国的な緊急事態宣言も選択肢の一つだ」
と強調した。
中川会長は14日に菅首相と面会。緊急事態宣言の全国拡大を求めたが、菅首相は明言を避けた。
こうした訴えに対し、医療の専門家の意見は――。
英キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司教授(公衆衛生学)は朝日新聞(1月14日付)で、こう指摘した。
「緊急事態宣言は医療崩壊を防ぐための劇薬。できるだけ早く、短期間に一気に行うことが大切。宣言は昨年12月にやっておくべきだった。コロナ慣れや自粛疲れもあり、宣言後も人の移動は大きく減っていない。希望的観測で『1か月』と言っているが、危機感が伝わっていない」
舘田一博・日本感染症学会理事長は日本経済新聞(1月14日付)で、こう嘆いた。
「4月の第1波の時と全然違う。1日あたりの新規感染者は10倍以上だ。これだけの規模とスピードで増えるとは予想しなかった。それでも逃げ腰の病院が多い。第1波で受け入れた病院が経営に大きなダメージを受けたのを知っているので、手を挙げない。大病院でも、現場が受け入れようとしても経営陣が『そんなことをしたら潰れる』と反対するケースがある」
また、「8割先生」こと西浦博・京都大学教授は1月13日、緊急事態宣言で東京都の感染者を解除基準の1日500人未満まで減らせても、宣言を解除して対策を緩めれば、2か月もせずに再び宣言が必要な流行状況に戻るというシミュレーションを厚生労働省の専門家組織に提出した。それによると、東京五輪が開かれる頃の7月下旬ごろにまたピークがくるという。