KDDI(au)は2021年1月13日、携帯電話料金の値下げプランを発表した。20GB(ギガバイト)で月額2480円(税別)と、先行するライバル2社、NTTドコモとソフトバンク(SB)の同じ容量のプランに比べて500円も安い。
しかし、この安さには「カラクリ」があった。いったい、それは何か――。
auの発表で、3大キャリアの「シンプルかつ低価格」プランが出そろったわけだが、ネット上では、
「後出しジャンケンのauが一歩リードの形だが、ガッカリした」
「大手キャリアの値下げはこれが限界か」
というあきらめの声が多いのだ。
「5分かけ放題」付きだと、結局3社横並び
KDDIによると、au向けの新料金プランの名前は「povo」(ポヴォ)。先行するライバル2社、NTTドコモの「ahamo」(アハモ)とソフトバンクの「SoftBank on LINE」と同様に、店舗でのサポートや申し込みを受け付けず、手続きはすべてオンラインで行う。
今年3月から20GB(ギガ)で、月額2480円(税別、以下同)で提供する。これは先行する2社の同容量のサービス、「ahamo」と「SoftBank on LINE」の月額2980円より500円安く、次のような特徴がある。
オンラインで選択できる、以下のような「追加トッピング」を用意する。
(1)通話定額は付いておらず、音声通話は30秒あたり20円。月額500円の追加料金で「5分以内通話かけ放題」のサービス。
(2)月額200円の追加料金で「データ使い放題24時間」を月に何度でも利用可能。
(3)月額500円の追加料金で「データ追加1GB」。
(4)月額1500円の追加料金で国内通話が無料となる「通話かけ放題」。
また、「povo」はauの現行の第4世代通信規格「4G」と次世代の通信規格「5G」に対応。MVNO(格安スマホ会社)ではなく、KDDIが直接サービスを提供するのでネットワーク品質はauと同等だ。なお、キャリアメールは利用できない。
KDDIの髙橋誠社長は1月13日、新料金発表会の質疑応答で、従来提供してきた既存プランも3月までに見直す方針を明らかにした。
「昨年12月に発表したAmazonさんと提携したプランは、(NTTドコモのahamoの直後で)タイミングがよくなく、お客さまからお叱りの声をたくさんいただいた。(3月発売のauの料金である『データMAX』が提供されるまでに既存プランの見直しを)みなさんへお届けできるよう準備を進めている。シンプルにしていく方向で検討を進めたい」
と述べた。
ほとんど通話しない若い人にはお得だが...
一見、「povo」はライバル2社より500円も安く、携帯電話値下げ戦争の最終勝者に浮上した感があるが、専門家はどう見ているのか。
ケータイ/スマホジャーリストの石川温(つつむ)氏は、自身のウェブサイト「KDDIのahamo対抗2480円プラン『povo』のカラクリ」の中で、こう解説している。
「povoは、ahamoやSoftBank on LINEよりも月額500円安い。ただし、ここには『カラクリ』が存在する。他社には月額2980円に『1回5分まで国内音声通話かけ放題』が含まれているが、povoには含まれていない。povoユーザーで1回5分まで国内音声通話のかけ放題が必要な人は、月額500円のトッピングをつける必要がある。つまり、データ容量20GBで1回5分まで国内音声通話かけ放題という内容で3社の新料金プランを比較すると、どれも月額2980円の3社横並びになるというわけだ」
「ただ、1回5分のかけ放題がいらないユーザーとすれば、他社と比べて500円安く済む。povoの最大の特徴は『トッピング』という考え方だ。月額2480円で20GBというシンプルな料金設定に加え、自分に必要なサービスを自在にネットで追加、トッピングしていくことができる。『週末、旅行に行くので、データを使い放題にしたい』というのであれば、200円を支払うと24時間、データ通信が使い放題になる。ピザやカレーのように、ベースとなる料理に自分の好きな具材を自由にトッピングする感覚に近い」
こうした料金プランは、海外の携帯電話会社で提供されており、タイの携帯電話会社は、YouTubeやFacebookなどに接続する際のデータ容量が安くなるトッピングをユーザーが選ぶことができるという。石川氏は、KDDIもこうしたユーザーのニーズに合わせ、自在にトッピングできる世界観を目指すようだとしている。
ネットでは、こんな意見があふれている。
ITジャーナリストの篠原修司氏は、こう投稿した。
「povoは5分かけ放題(+500円)をつけると2980円となり、3社横並びのように見えますが、電話をしない層にとっては他社よりも500円安い魅力的なプランです。携帯電話の通話料金は30秒で20円とそれなりに高い価格設定のため、『携帯電話からあまり電話をかけない(基本的にLINEで済ます)』という人は多く、それらのユーザーからするとahamoやSoftbank on LINEよりも安く利用できます。そして200円で24時間データ使い放題という独自のトッピングはメリットです」
フリーランスジャーナリストの山口健太氏も、こう評価した。
「特徴は『トッピング』機能です。24時間の使い放題トッピングは200円となっており、しかもテザリング(スマホなどのデータ通信を利用して、パソコンやタブレット端末、ゲーム機器などをインターネットに接続すること)も対象とのことから、週末の動画視聴やオンライン授業など特定の日だけ無制限に使いたい人に最適といえます」
ほとんど通話をしない人からも称賛の声が。
「通話が必要ないという人や、もっとデータが欲しい人など、今はさまざまな使い方が本当あるので、選べるという点ではとても良いと思いました。5分以内なら値段が同じではインパクトが少ないので、500円マイナスで通話部分をオプション扱いにしたのは賢明です。他の2社も合わせてきたら結構厳しい状況になりそうです」
それなりの評価がある一方、「結局、今回もサブブランドの発表でメインプランの値下げではなかった」とガッカリする人が多かったのは確かだ。
「なぜ各社ともにメインブランドでは値下げせずに、新ブランドで誤魔化すのだろうか? マスコミの報道の仕方にも問題がある。以前から各社、『新プラン』の発表なのに『値下げ』と書く。メインブランドで単純に値下げしてくれれば、そのキャリアメールを使えるし、面倒な乗り換え手続きをしなくてもいいのに」
「大手3社それぞれ格安プラン(ブランド)を提供、で幕引きを図りたいといったところだろうか。単純に現状の携帯電話料金の値下げを要望する菅内閣の意図からずれているが、総務省はどう反応するのか。個人的には今の契約プランをただ値下げしてくれることを期待していたのでガッカリだ」
最後の「後出しジャンケン」楽天が何を仕掛けてくるか
また、こんな要望を出す人が多かった。
「3社とも20GBにしているが、スマホをあまり使わないライトなユーザーからすると、『10GBで月額1480円』みたいなプランが出てきたらうれしい。どこか出してくれないかな?」
「20GB使う人なんて家にISP(インターネットサービスプロバイダー)がない人なら必要だろうが、職場と自宅で携帯網使わない人なら5GBあれば十分。『5GBで月額980円』に10分通話無料プラン・オプションで500円が欲しい」
こういう要望については欲張りすぎという意見も多かった。
「ドコモ、au、Softbankの3ブランドとも、キャリアメールなし、ショップ対応なしの実質サブブランドなので、容量が大きすぎるのならMVNO(格安スマホ)にしてもいいんじゃないですか? イオンとかなら店頭対応もあるし」
「3社は設備投資やそのメンテナンスのために人件費も払っているから、これが限界。『これ以上安く!』はわがままの部類に入ってくる。格安に目を向ければ使わない人向けのもっと安いプランがいくらでもあるよ。まさかデータ通信はそんなに使わないのに通信の品質は最高級がいいとか、そんな要求するわけじゃあるまい?」
今後、各社の値引き競争はどうなるのか。こんな意見があった。
「こう各社出揃うと、やはり後出しのauが一番バランスは取れている気がする。逆にソフトバンクはサブブランド一個潰してまでやったのに、ネーミング以外は目立たなくなってしまったので、早まったかな。好評のサービスは真似するのがこの業界なので、競ってよいものにしてもらえればいいかと」
「年寄りとIT音痴はショップサポートのある従来のプランを、そうでない人はpovoを。シンプルで良いと思う。Apple watchがpovoで使えたら、最強だな」
「auは頭ひとつ抜きに出ましたね。通話をほとんど使わない若者は飛びつく可能性は高いですね。au回線利用というのも大きい。あとは最後の後出しジャンケンになりそうな楽天モバイル。プラン内容によっては大崩れしそうですね。価格競争に火をつけた張本人なのですが、総務省はほったらかしですかね」
(福田和郎)