韓国で日本の自動車の販売不振に歯止めがかからない。
「やはり日本製品不買運動が響いているのか」と思いきや、「日本車の魅力がないからだ」と韓国メディアがにべもなく言い放つ。
いったい、どういうことか。韓国紙で読み解くと――。
日本車のデザインは「ガラパゴス化」している
日本車販売の急落が不買運動のせいばかりではないと強調するのは、中央日報(2021年1月10日付)「韓国でシェア1%... 日本車の急落は不買運動のせい? 理由は別にあった」である。
「韓国の自動車市場でこの1年で日本車のシェアが1%に落ちた。韓国で売られた新車100台のうち、日本車は1台だけという意味だ。2019年に巻き起こった日本製品の不買運動に起因するところが大きいが、専門家らは『全体的に日本車の魅力が落ちた』と分析した。また、日本国内でも『革新性と果敢な投資が足りなかった』という指摘が出ている」
韓国輸入自動車協会(KAIDA)などの輸入車販売実績によると、トヨタ、ホンダ、日産(編集部注:2020年末に韓国市場から撤退)の日本車3ブランドは昨年、韓国市場で約2万500台を売った。
昨年売れた輸入車27~28万台のうち約7.5%を占めており、韓国国内の自動車販売全体の189万~190万台で見ると1.1%にすぎない。輸入車のうち日本ブランドの割合が10%以下に落ちたのはKAIDAが実績を集計し始めた2001年以降で初めてのことだ。
韓国の国産車・現代(ヒョンデ)自動車グループは販売台数が、2019年より6.2%増加。輸入車のメルセデス・ベンツは2年連続で7万台規模を維持。またアウディとフォルクスワーゲンは2019年より2倍以上増えた。日本車だけ後退した格好なのだ。日本車が後退したのはなぜか――。決して「日本製品の不買運動」の影響だけではないと、中央日報はこう指摘する。
「日本車の不振が韓日貿易紛争による『ノージャパン感情』のためだけではないという見方が優勢だ。韓国の消費者がクルマを選択する際に重要と考えるデザインと便宜性、革新性などほとんどすべての販売条件で日本車が競争力を失っているということだ」
中央日報の取材に対し、韓国の専門家たちはこう語った――。
ハイ投資証券リサーチセンター長のコ・テボン氏は「現代自のジェネシスなど韓国車の品質が上がっており、あえて価格の高いトヨタ・レクサスを買う理由がなくなった。デザインも『ガラパゴス』という言葉があるほど韓国の消費者の好みとは距離がある」と話した。
「ガラパゴス」は日本車が自国の消費者だけ共感するデザインを採択しているという意味だ。
クルマを社会的地位と関連付ける性向が深まったのも要因と分析される。仁荷(インハ)大学消費者学科のイ・ウンヒ教授は「韓国の消費者にクルマは単純な消費財以上だ。そのような面からドイツの高級ブランドなど欧州車は誇示しやすい。これに対し日本車は実用性が良いと認められたが、最近欧州車の価格が下がり競争力を失った」と指摘した。
不買運動の中でもユニクロが好評なのは魅力があるから
日本車がもし魅力的なら、不買運動にも関わらずもっと売れたはずだという例として、中央日報は「ユニクロ」のケースを挙げている。こう続ける。
「韓国市場で日本車の不振はユニクロや無印良品など日本の消費財ブランドと比較しても目立つ。ユニクロを運営するFRLコリアは不買運動真っ盛りの期間に売り上げが急減したが、『ヒートテック』など比較優位製品を掲げて年間6000億ウォン(570億円)以上を記録した(2019年9月~2020年8月)」
これは、韓国内の同業他社を上回る数字だという。中央日報の取材に対し、ビジネスインサイトのキム・インホ副会長はこう指摘したのだった。
「日本のファーストリテイリングは革新を基に競争ブランドがついていけない機能性を前面に出す。これに対し日本車はそうした競争力がない。10年ほど前から日本の若者は『これ以上車は必要ない』と考えている世代だ。そうしたことから自動車メーカーも革新や開発に対する努力をあまりしなかった。最近電気自動車や水素自動車の競争でもテスラや現代自動車に押されているのがこれを傍証する」
そして、今年欧州市場から撤退する三菱自動車のある役員が最近外国通信社とのインタビューで語った次の言葉を紹介している。
「革新を推進するための十分な販売が後押しされなかった」
米グッドデザインアワードを9車種受賞した現代自
最近、韓国車のデザインの革新性が優れている点では、東亜日報(2020年12月31日)「現代自グループの9車種が米国の『グッドデザインアワード』を受賞」が誇らしげに、こう伝えている。
「現代(ヒョンデ)自動車グループの9車種が、米国で権威あるデザイン賞『2020グッドデザインアワード』を受賞した。正式な発売を控えて、次世代電気自動車の姿を垣間見ることのできるコンセプトカー2つも受賞作に名を連ねた。現代自動車グループは12月30日、アワード受賞作に現代自の4つ、起亜(キア)自の2つ、ジェネシスの3つが選ばれたと明らかにした」
特に現代自が2021年と2022年に発売する次世代電気自動車「アイオニック5」と「アイオニック6」のコンセプトカー「45」と「プロフェッシュ」が、受賞作に選ばれた。まだ発売していない製品のコンセプトデザインが好評を受けたのは珍しい。9車種のうち1つを除けば、すべての受賞作が電気自動車と関連している。また、ジェネシスは2015年から6年連続受賞という快記録を続けている。
こうした勢いに乗る韓国車に対し、韓国では不振の日本車。先の中央日報は、「日本への親近感」が落ちた点も要因点の1つだとして、日本への観光旅行との関連を紹介している。
「韓国市場で日本車の盛衰を現わす興味深いデータがある。日本を訪れる韓国人旅行客が増えた時に日本車に対する消費も爆発的に増加したという点だ。日本車が韓国で1万台以上売れた2006年は訪日韓国人旅行客が200万人を突破した時だ。また、訪日旅行客が500万人を超えた2016年に日本車販売は3万台以上を記録し、過去最多販売を記録した2018年は訪日旅行客が753万台でピークに達した」
ところが、2019年の日韓対立の勃発で日本への観光客が激減した。日本車の競争力下落のほかに「日本への親近感」が大きく落ち込んだことが自動車販売に影響を及ぼしたという見方だ。漢陽(ハンヤン)大学観光学部のイ・ヨンテク教授は中央日報の取材に対し、こう指摘した。
「韓日間交流が遠ざかり、需要と供給以外の環境的要因が日本車需要に影響を与えた。今後は親近感を反映する観光交流がひとつの先行条件になるかもしれない。韓日間交流が増えれば日本車など日本製品に対する需要が増える可能性がある」
親しみを持てる国の製品なら欲しくなるものだ。当たり前のことに日韓双方の人々が気づいたというだろうか。
(福田和郎)