警察庁は2021年1月4日、「2020年中の交通事故死者数」を発表した。交通事故の発生件数にも新型コロナウイルスの感染拡大の影響が表れているようだ。
2020年の交通事故発生件数は30万9000件となり、前年比で19.0%も減少した。負傷者数も36万8601人と、同20.2%の減少と大幅な減少となった。発生件数、負傷者数とも前年比で2年連続の2ケタ減少となったが、前年が発生件数11.5%減、負傷者数12.2%減だったことから、大幅な減少となった。
24時間死者数「2020年までに2500人以下」達成できず
交通事故の発生件数は2004年の95万2720件から、負傷者数も同118万3617人から減少が続いている=表1参照。しかしながら、2018年までの減少幅は1ケタなのに対して、2019、2020年の減少幅が2ケタ。特に2020年の大幅減少の背景には、新型コロナウイルスの影響があると思われる。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、政府の緊急事態宣言、不要不急の外出自粛、県を跨いだ移動の自粛など、人の移動の抑制が交通事故の減少につながったのだろう。
ただ残念なのは、交通事故による死者数が発生件数や負傷者数よりも小幅な減少にとどまったことだ。死者数は2839人と11.7%減少し、5年連続で減少。4年連続で戦後最少を更新して、初めて3000人を下回った。
しかし、警察庁が第10次交通安全基本計画で掲げた「2020年までに24時間死者数を2500人以下とする」目標については達成できなかった。
死者数が小幅な減少にとどまった要因の一つとして、65歳以上の高齢者の減少が小幅なものにとどまっていることがある。2020年の高齢者の死者数は1596人で前年比10.4%減少だった。
死者数は1970年の1万6765人のピーク以降、減少が続いている。死傷者のうち65歳以上の高齢者についても、2015年に小幅増加した後、5年連続で減少していることがわかる=表2参照。しかし、高齢化の進展で高齢者が増加していることもあり、減少幅は小幅にとどまっている。
死者数の上位は人口減で高齢化率の高い県
新年早々の1月4日、東京都渋谷区笹塚の国道20号線の交差点で、タクシーが横断歩道を渡っていた歩行者を次々とはね、1人が死亡し5人が負傷するという事故が発生した。タクシーの運転手は73歳の男性で、高齢者による交通事故だった。
2021年も引き続き、高齢者の交通事故が注目を集めそうだ。
さて、死者数のワーストは、東京都が155人、愛知県154人、北海道144人、神奈川県140人、千葉県128人と、主に首都圏に集中している。
ただ、これは人口の多さに比例して交通事故数が多く、死者数が多くなっているということにすぎない。
従って、人口10万人あたりの死者数を見ると、香川県6.17人、福井県5.34人、高知県4.87人、三重県4.10人、佐賀県4.05人と、むしろ人口減少県で高齢化率の高い県が上位を占める。ちなみに、東京都の人口10万人あたりの死者数は1.11人でしかない。
経済や生活に大きな悪影響を与えている新型コロナウイルスも、交通事故には好影響を与えたとは皮肉なものだ。(鷲尾香一)