「携帯電話料金値下げ」のためにあの手この手を繰り広げる総務省が、携帯電話の乗り換え手続きを支援する試験事業を始めることがわかった。
民間各社のサービスを比較し、「あなたにはこちらがオススメです」とアドバイスする「スマホ乗り換え相談所」を設けるというのだ。
「役所が税金を投じてやる必要があるのか?」
「民間いじめが酷すぎる」
という猛批判を起こっている。
今夏に全国で3か所、政府委託の試験事業で開始
総務省が「スマホ乗り換え相談所」の設置に動いていると報じたのは、毎日新聞(2021年1月4日付)「総務省が『スマホ乗り換え相談所』設置へ 各社プラン、中立で比較」という記事だ。
「総務省は今夏にも、携帯電話の乗り換え手続きを支援する『スマホ乗り換え相談所』の試験事業を始める。携帯各社が料金の値下げを進める中で、中立の立場で各社のサービスを比較して、利用者それぞれに合った会社や料金プラン、機種への変更を後押しする。政府が税金を投じ、民間サービスを比較する場を設けるのは異例だ」
毎日新聞によると、具体的にはこうだ――。
総務省は「相談所」に、複数の保険会社の商品を扱う「保険ショップ」のような役割を想定。携帯電話業界では、販売代理店が個別に大手携帯会社と契約しており、他社のプランは紹介していない。また、携帯電話のプランは複雑で、比較するのが簡単ではない。このわかりにくさが、携帯会社の乗り換えが進まない要因にもなっており、相談所を通じて個々に最もお得なプランを勧めるなどして携帯会社間の競争も促す。
相談所は今夏以降、全国3か所以上に開設する。運営は民間の中古端末取扱事業者や修理事業者、量販店などに委託する方針で、すでに複数の事業者が関心を示している。
総務省は、携帯各社の料金プランを比較できるシステムの構築費用や人件費など約1億4000万円を負担するほか、将来は本格的な事業化も後押しする。特定の携帯会社に偏らずに中立性を保てるビジネスモデルや運営事業者の資格制度などについても検討するという。
毎日新聞は、こう結んでいる。
「政府がこうした取り組みを始める背景には、利用者が自分に適した料金プランを選べていない現状がある。総務省の利用実態調査によると、大手と契約している利用者のうち4割程度が、月20ギガバイト以上のプランだが、実際にそこまでのデータ容量を使っているのは1割程度。多くの人が余分に料金を払っているのが実態だ。大手の新料金プランはウェブでの手続きが中心だ。相談所では、ウェブ手続きになじみのない人でも気軽に乗り換えができる支援も検討する」
この「スマホ乗り換え相談所」設置の動きについては、昨年(2020年)12月末、日本経済新聞と産経新聞が相次いで報じた。報道内容について、武田良太総務相は2021年1月8日、年頭記者会見で「事実だ」と認めた。
事業者選定で電通が中抜きしたような構図が心配だ
そして、記者団から、
「スマホ乗換え相談所は、携帯各社の競争政策の一環としての取り組みかと推察するが、一方で、民間でも手がけられる事業ではないか、なぜ総務省が実施するのかという声もあり、手がける理由が今ひとつ伝わっていない。総務省が進める意義、背景は何か」
と問われると、武田総務相はこう答えたのだった。
「国自身が相談所を創設して運営するわけではない。携帯電話料金問題で一番重要なのは、利用者が自分のニーズを把握し、それに見合ったサービスを合理的に選択しているかどうかがだ。今まではわかりにくい説明を事業者から出されていた。モバイルのメニューに精通していない人にも、しっかりとした説明がやさしく丁寧にできる環境を作り上げるのは大事なことだ」
「中立的な立場で、携帯電話事業者から相談に乗ってもらう環境を作り上げていく。そのため、来年度(2021年度)に『乗換え相談所』のモデル事業を実施する。2022年度以降にビジネスベースでの事業を展開していきたいと思っている。実証事業の中で、1日当たりの相談者数や乗換えに至った契約者数等をしっかりと我々が把握し、様々な問題解決に生かしていきたい」
まずは、政府委託のモデル事業として始め、ゆくゆくは民間事業に育てていくつもりのようだ。
ネット上では、総務省が始めようとしている「携帯電話乗換え相談所」については、さまざまな批判の声があがっている。
フリーランスジャーナリストの山口健太氏は、総務省の狙いをこう指摘した。
「総務省は携帯料金の理解促進や乗り換えの円滑化を進めており、『スマホ乗り換え相談所』もその一環と考えられる。実際の運営は民間に委託するというから、家電量販店の中に相談コーナーができるようなイメージだろう。いま話題の低料金プランの『アハモ』や『SoftBank on LINE』はオンライン専用で、店舗でのサポート対応はない。すべてがオンラインに移行すると困る人もいるので、そこを補完する目的では一定の効果がある。とはいえ、政府の値下げ要請により大手キャリアが安価なプランを拡充したことで、携帯市場では大手による寡占化が進む。総務省はキャリア間の乗り換えを進めたいようだが、実際には同じキャリア内でのプラン変更を選ぶ人が増えそうだ」
ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタントの神田敏晶氏は、総務省は他の方面に力をふるうべきだと批判した。
「総務省はいつから家電量販店のような事業をやるようになったのか。総務省は携帯電話料金ではなく、そもそもの解約や契約の難しさに対しては本来の権限で力をふるうべきだ。たとえば、新しいプランを1か月だけ試して、何もなければ簡単に元に戻せるようにするとか、MNP(携帯電話番号ポータビリティー)の変更期間を2週間ではなく、3か月間有効にするとか、常に通信会社が満足度をあげる努力を続けなければならない状況を作り出すことが重要だ。ウェブサイトの解約ページがロボットにクロールされないようにnoindex(編集部注:指定したURLをgoogleなどの検索エンジンにインデックスさせないための仕組み)になっており、解約で検索してもたどりつけないなど、改善点はいくらでもある。こういった場面に切り込んでいかないと、(予算の)1.4億円を使って実験店舗を運用したところで、結局、家電量販店の販促費に化けてしまうだけだ」
(福田和郎)