「在宅勤務が望ましい」と考える日本人は80%
ワクチン開発が相次ぎ、欧米では接種が始まっているが、コロナ禍の収束はいまだ見えていない。ウイルスの変異種が発見されているが、今後は新たな未知のウイルスによるパンデミックが起こるかもしれない。
だから、このコロナ禍をとらえて、在宅勤務をはじめとするニューノーマルへの移行は一気に推し進めることが重要なのだ。
「ニューノーマルとは、長い時間かけて変わるというよりは、何かをきっかけに短時間のうちに変わる。そして、変化は一時的でなく、永続的だ。つまり、変化したものが元に戻らず、継続する。したがって、ニューノーマルに対応できたものが成長し、対応できなかったものが淘汰される」
本書で引用されている世界各国の在宅勤務(テレワーク)率調査によると、ドイツ80%、米国60%で、日本は30%をわずかに上回る水準。欧米諸国以外でも、中国、インド、メキシコなどは50%以上だ。
一方、この調査では各国別に「在宅勤務が望ましいと考える人」の割合を示しており、日本はそれが80%にのぼる。米国74%、ドイツ、フランスは68%。ここから日本は「労働者が在宅勤務を望んでいるにもかかわらず、企業がそれを認めない」国と解釈できる。
在宅勤務のニューノーマル化を阻んでいるのは、この「オフィスでの仕事が基本という考え」の根強さに加え、紙文化やハンコ文化の伝統、社内ネットワークへの在宅接続の危険性、サイバー攻撃に対する脆弱性が指摘されている。
これらは制度改革やネットワークの最新化、クラウドの利用などで解決できる。クラウドシステムを使えば、物理的なサーバーを設置せず少額の初期投資で、在宅勤務に適したネットワーク構築も可能という。本書では、その方法などについても詳しく解説している。
日本では企業ばかりか政府も自分のところのネットワークに閉じこもっていて、外部のネットワークをつなげておらず、そのことが日本のデジタル化を遅らせている原因の一つだと野口さんは指摘する。
「クラウドは自社のデータを他企業に預けることになって不安だからしないと考えている人が多いのだ」
「コロナウイルスをきっかけに、日本企業での仕事の進め方を改革すべきだ。そうすれば日本の生産性を引き上げることができるだろう」
本書では、ほかに「財政支出増でインフレにならないか?」という疑問に対する回答や「実体経済から離れた株価の動き」の理由について述べ、「迷走を続けた政治の対応」の背景などについても解説している。
「経験なき経済危機 日本はこの試練を成長への転機になしうるか?」
野口悠紀雄著
ダイヤモンド社
税別1600円