テレワーク支える柱の一つは「ジョブ型雇用」だ!

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   新型コロナウイルスをめぐって緊急事態宣言の再発令となり、企業では在宅勤務の体制が強化されそうだ。しかし、たとえコロナが収束に向かっても、全社員が出社するコロナ禍前の働き方に戻ることはないと多くの人は考えているに違いない。

   本書「さよならオフィス」は、その流れを受けて、デジタル技術の進化で大きく変わった「集まって働くことの意味」を考えながら、これからは、どこで、どのように働けばいいのか、現状で進められている改革をベースに解き明かそうとする一冊。

   近い将来にわたしたちの働き方が抜本的に変わっていることを予想させる。

「さよならオフィス」(島津翔著)日経BP
  • 緊急事態宣言下の2020年5月、乗客が消えた地下鉄も
    緊急事態宣言下の2020年5月、乗客が消えた地下鉄も
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「新しい働き方」と「オフィスの存在意義」

   安倍前政権が推進しはじめた「働き方改革」。その中で、雇用形態や人事制度、個人のワーク・ライフ・バランスなどが盛んに議論されるようになったが、「オフィスのあり方」は議論されてこなかった。

「『働き方』の変化と、『働く場所』は本来、表裏の関係にある。ウイルスによって対面が制約されている今、その両面の変化を探ることで初めて、働き方におけるニューノーマル(新常態)が見えてくるのではないか」

   こうしたことが本書の出版の動機。その特徴として「新型コロナを奇貨として誰もが模索している『新しい働き方』と『オフィスの存在意義』を、両面から取材している点にある」という。

   著者の島津翔さんは、技術系デジタルメディアの日経クロステック副編集長で、テクノロジー領域を横断する企画を担当している。東京大学大学院工学系研究科で建築家の内藤廣氏に師事し、その修了後、日経BPに入社。日経アーキテクチュアなどを経て、日経ビジネス記者として自動車などの製造業を担当した経歴を持つ。

   本書では、「『決まった場所に集まって働く』というスタイルが確立された歴史」を遡り、その起源を産業革命期の英国に求めるなどして、「集まって働くことの意味」を考察。その一方で、コロナ禍のなか、とくにベンチャー企業で加速度的に進んだオフィスの縮小・移転のリアルなルポも盛り込んでいる。

   たとえば、東京・港区で約80人が勤務するサービス業向けに生産性改善をサポートする企業は、2020年4月の緊急事態宣言の直後に、全社員に在宅勤務を指示。無人のオフィスを続く様子を目の当りにした経営者は「誰も来ないオフィスに月500万円(約180坪)は払えない」と解約を決め、テレワーク体制を前提に、隣の品川区で、3分の1のスペースで月額100万円の事務所をみつけ移転した。

   会議室は不要と割り切り、必要なときにレンタルスペースを利用することにしたという。

この冬にベンチャーの移転ラッシュが起こる?

   本書では、この冬にベンチャーの移転ラッシュがあるのではと予想している。「移転ラッシュ」の見込みは「続々登場するオフィス縮小コンサル」の群れも生んでいるといい、その模様も報告されている。

   コロナ禍でテレワークが加速し、政府が推進する「働き方改革」と合体する格好で、ようやく「オフィスのあり方」が議論されるようになってきた。

   その具体的な動きとして本書が指摘するのは「一部の企業では、新しい働き方をルールの側面から促す『ジョブ型』の人事制度が始まりつつある」ということ。「ジョブ型雇用」は、新型コロナウイルスの感染拡大を機にトレンドワードの一つになっている。

   「ジョブ型雇用」は、一般的には、社員に対して職務領域やその具体的な内容を定義し、その職務に対する成果を評価する雇用形態のこと。終身雇用や年功序列を特徴とする日本型雇用システムが「メンバーシップ型雇用」とされ、それに対比する形で定義された。

   日本型雇用システムは、新卒者を一括で採用して、具体的な職務を決めぬまま契約するのが一般的。会社という共同体の一員であることを重視する。「就職」というより「就社」といったほうが実態に合っており、「ジョブ型雇用」のほうが「就職」に近いといえる。

日立製作所の改革がひな型に

   企業では、少子高齢化やテクノロジーの進化で新型コロナウイルスの流行以前からジョブ型雇用への転換を目指す動きが始まっており、日本経済団体連合会も積極的に推進。中西宏明会長は2019年5月に「終身雇用は限界にきている」と述べて、日本型雇用からの脱却を掲げ改革を進めている。

   「そのタイミングで新型コロナの感染が拡大。緊急事態宣言による外出自粛要請は、テレワークという半強制的な働き方改革をあらゆる企業に迫った」と著者という。

   ベンチャーは一斉にオフィスの縮小・移転へと向かい、大企業はというと、「本社移転」を合わせ「ジョブ型雇用」導入へと一斉に動き始めた。本書で紹介されているのは、富士通、日立製作所、KDDI。

   富士通は、2020年7月6日に「オフィスの面積を半減する」と発表。当初は「面積半減」がクローズアップされる形で衝撃的に伝わったが、その計画を詳細に検討すると「働き方改革先進企業」としての戦略が伝わってくる、と著者。本書でその内容が詳しく解説されている。

   発表では同時に人事制度を「ジョブ型」への移行も述べられている。2020年4月に幹部社員約1万5000人について導入済みで、対象を広げる計画を明らかにした。

「これまでオフィスで向かい合って座り、雰囲気で仕事を分担していたがこれからはできない。テレワークを前提とした働き方と、役割をきちんと明文化して共有するジョブ型の人事制度は非常に相性がいいと考えている」

という富士通担当者の談話が引用されている。

   日立製作所が2020年5月26日に、新たな働き方についてオンライン会見で発表。同社は国内製造業でトヨタ自動車に次ぐ従業員数を抱えており、本書で引用されている、ある製造業人事担当幹部の発言によれば「日立の方針は日本の大企業の大きな方向性を決定付けたと言っても過言ではない」という。

   日立は2021年4月から新しいルールによる働き方を適用。在宅勤務ができる職種の従業員は週に2~3日は在宅勤務を目指し、加えて、富士通と同様に、人事制度のジョブ型シフトを進めている。

「さよならオフィス」
島津翔著
日経BP
税別900円

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