新型コロナウイルスをめぐって緊急事態宣言の再発令となり、企業では在宅勤務の体制が強化されそうだ。しかし、たとえコロナが収束に向かっても、全社員が出社するコロナ禍前の働き方に戻ることはないと多くの人は考えているに違いない。
本書「さよならオフィス」は、その流れを受けて、デジタル技術の進化で大きく変わった「集まって働くことの意味」を考えながら、これからは、どこで、どのように働けばいいのか、現状で進められている改革をベースに解き明かそうとする一冊。
近い将来にわたしたちの働き方が抜本的に変わっていることを予想させる。
「さよならオフィス」(島津翔著)日経BP
「新しい働き方」と「オフィスの存在意義」
安倍前政権が推進しはじめた「働き方改革」。その中で、雇用形態や人事制度、個人のワーク・ライフ・バランスなどが盛んに議論されるようになったが、「オフィスのあり方」は議論されてこなかった。
「『働き方』の変化と、『働く場所』は本来、表裏の関係にある。ウイルスによって対面が制約されている今、その両面の変化を探ることで初めて、働き方におけるニューノーマル(新常態)が見えてくるのではないか」
こうしたことが本書の出版の動機。その特徴として「新型コロナを奇貨として誰もが模索している『新しい働き方』と『オフィスの存在意義』を、両面から取材している点にある」という。
著者の島津翔さんは、技術系デジタルメディアの日経クロステック副編集長で、テクノロジー領域を横断する企画を担当している。東京大学大学院工学系研究科で建築家の内藤廣氏に師事し、その修了後、日経BPに入社。日経アーキテクチュアなどを経て、日経ビジネス記者として自動車などの製造業を担当した経歴を持つ。
本書では、「『決まった場所に集まって働く』というスタイルが確立された歴史」を遡り、その起源を産業革命期の英国に求めるなどして、「集まって働くことの意味」を考察。その一方で、コロナ禍のなか、とくにベンチャー企業で加速度的に進んだオフィスの縮小・移転のリアルなルポも盛り込んでいる。
たとえば、東京・港区で約80人が勤務するサービス業向けに生産性改善をサポートする企業は、2020年4月の緊急事態宣言の直後に、全社員に在宅勤務を指示。無人のオフィスを続く様子を目の当りにした経営者は「誰も来ないオフィスに月500万円(約180坪)は払えない」と解約を決め、テレワーク体制を前提に、隣の品川区で、3分の1のスペースで月額100万円の事務所をみつけ移転した。
会議室は不要と割り切り、必要なときにレンタルスペースを利用することにしたという。