新型コロナウイルスによる感染拡大が続く首都圏の1都3県を対象にした緊急事態宣言で、経済への影響はどうなるのだろうか――。
大和証券グループの大和総研と第一生命経済研究所が2021年1月5日と6日に相次いで予測レポートを発表した。
今回の宣言は全国を対象にした前回と比べてエリアが限定されることから、経済面でブレーキにはなるが、いずれのレポートも影響も小規模にとどまると予測している。ただ、経済活性化策の「Go To トラベル」キャンペーンの停止に加えての措置となることから、「戻りかけた日本経済がまた悪化に転じてしまう状況は避けられない」(第一生命経済研究所)という指摘もある。
1都3県限定で落ち込みも限定的か
大和総研は、経済調査部のシニアエコノミスト、神田慶司氏とエコノミストの山口茜氏の連名によるレポートをウェブサイトで発表。それによると、前回の緊急事態宣言での個人消費への影響は「1か月当たりマイナス4兆3000億円程度だったと試算される」という。
今回の宣言の対象は1都3県に限定されることで「消費の落ち込みの規模は全国が対象となる場合に比べ 3 割程度に抑えられる」見込みだ。
前回の宣言での1か月当たりの個人消費への影響を都道府県別でみると、「東京都がマイナス6000億円程度と最も大きく、1都3県ではマイナス1兆4000億円程度」。前回の場合は、飲食店や宿泊、娯楽施設など幅広く営業活動が抑制され、学校の一斉休校も行われたが、今回は飲食店の営業時間の短縮要請が中心で、同じ規模での「落ち込みは避けられるだろう」とみる。
実質GDP(国内総生産)への影響について「減少額はGo Toキャンペーンの一時停止の影響を含めて最大1兆4000億円程度」で、このうち、Go To一時停止により4000億円程度の減少が見込まれる。
しかし、緊急事態宣言再発出による財消費への影響は限定的であり、また、さまざまな要因を勘案して、
「サービス消費の減少額が前回の6割」と想定される。このため、緊急事態宣言の影響による減少額は1か月当たりマイナス5000億円程度の見込みで、実際の実質GDPへの影響は「9000億円程度と見込まれる」
と予想している。
ワクチン接種が広がらないと日本経済の復活はない!?
第一生命経済研究所は、経済調査部首席エコノミストの永濱利廣氏がレポートを発表。それによると、内閣府の県民経済計算をもとに算出した1都3県の家計消費が、全国のそれに占める割合は33.2%。総務省の家計消費調査(2020年7~9月期で約57兆5000億円)をもとに、宣言発出で1都3県の、前回の宣言と同じ規模で「不要不急消費」が1か月止まると仮定した場合、最大3兆3000億円の家計消費が減る計算だ。
だが、今回の宣言は飲食店の営業時間短縮が中心。それに合わせた試算のため、レポートでは、
「宣言の発出により1都3県の外食が3分の1、それ以外の不要不急消費が半減すると仮定」し、家計消費(2020年7~9月期)の基づくと、その減少額は1兆7000億円程度になる。「そして、付加価値誘発係数に基づけば、GDPベースで1兆4000億円減(年間GDP比0.3%減)の損失にとどまる計算になる」
としている。
第一生命経済研究所のレポートでは、Go To停止の影響を加味した場合、家計消費の減少額は1兆9000億円程度となり、「GDPベースで1兆6000億円減(年間GDP比0.3%減)の損失に拡大する計算になる」という。
このレポートは「2020年11月の労働力調査では、宿泊・飲食サービス関連を中心に雇用環境改善の兆しが見え始めていたが、冬場にかけての『Go Toトラベル』 の停止に加えて緊急事態宣言発出となれば、戻りかけた日本経済がまた悪化に転じてしまう状況は避けられないだろう」と見通す。
「そもそも経済へのダメージが大きい緊急事態宣言を発出せざるを得ない背景には、医療提供体制のボトルネックがある」
と指摘し「医療のボトルネックやワクチンの接種率上昇などにより感染症へのリスクを取り払わない限り日本経済の復活はないと言えよう」と結んでいる。