地下鉄の神保町駅を出て、水道橋方面に進み路地に入る。赤茶色のビルの1階に、静かに店を構えるのが「蘭花堂」だ。中国関連の書籍や美術品などを扱うこの店は、1989(平成元)年に神保町で開業した。
店内は中心に応接用の椅子が置かれ、壁には中国美術や中国語などの本が大小さまざまに並んでいる。店の一角には大きなガラス棚があり、印章や陶器などの美術品が陳列する。店主の中村百合子さんにお話をうかがった。
中国ブームのなか、夫婦で始めた「蘭花堂」
中村百合子さんが中国文化に触れたのは、大学で中国語を専攻したことがきっかけだった。当時は日中の国交回復(1972年9月)前、近くて遠い大国であった中国に興味を引かれた。
中国の経済成長とともに百合子さんの身につけた中国語の需要も高まる。大学卒業後結婚し、母となった百合子さんは独立。中国語の翻訳会社を一人で立ち上げた。「当時は育児もしながら、無我夢中で働きましたね」と振り返る。
限界まで働き詰め。働き方を見つめ直した時に夫婦で思い立ったのが、この「蘭花堂」であった。
夫の中村愿さんは、岡倉天心や中国美術・歴史の研究家であり、いくつもの著書を持つ。店はご夫婦二人で力を合わせて立ち上げた。執筆活動に専念したいと、徐々にお店は百合子さんと息子の光宏さんで運営するように。
「初めは中国美術書の専門店として店を始めました。当時は国内に資料も少なく、骨董品を買われる方向けに販売していました。お客様とのつながりも増え、徐々に書画などの美術品も取り扱うようになったんです」
研究者や大学の先生などもお店に足を運ぶ。古書店としては珍しく、市場で商品を仕入れていないという。
「長い付き合いのお客様が蔵書を手放されるときなどは、うちで買い取らせてもらっていますね。その方々の持っていた専門書などが、また次の世代の手に渡るのを仲介しているような感じ」
と話す。
そうして扱うジャンルは徐々に増えていき、現在は中国の原書だけでなく日本語で書かれた専門書なども扱うようになったそうだ。