コロナ禍の2020年 欧米に比べて感染者少ない日本、それなのに経済は......(上)(小田切尚登)

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   新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済に第2次世界大戦以来の打撃を与えた。なかでも、サービス業へのショックが最も大きかった。ホテル、レストラン、エンタメ、観光・旅行などの打撃が大きく、それらの産業を中心となって支えてきた女性が最も大きな被害を受けた。

   人口が集中していてサービス業の中心となっている都市部の被害が大きいことも特徴である。会社への通勤から自宅勤務という変化が訪れ、人々がネットを使う時間が増した。そのためITなどの一部の業界の業績は良かった。

  • 2020年、コロナ禍で世界経済は大混乱した
    2020年、コロナ禍で世界経済は大混乱した
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分断された米国と習近平「独裁」体制の中国

   2020年の米国の状況を振り返ってみよう。米国では特筆すべき大きな事象が、3つあった。まず新型コロナウイルスの感染拡大であるが、その影響は日本などよりはるかに大きかった。感染者は1880万人を超え、死者が33万人に近づいている(12月28日WHO統計による)。

   そして、コロナ以外では人種問題がクローズアップされた。5月25日に黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官に殺害されたことに端を発して、人種差別反対の運動が全米で活発化した。暴動に発展した地域もあり、米国全土が混乱に陥った。

   3つ目は11月3日に行われた米大統領選である。本来ならば4年に一度のこの選挙が2020年最大のイベントになるはずであった。民主党のバイデン候補が当選したことは、みなさんご存知のとおりだが、選挙によりトランプと反トランプの争いが激しくなり、米国はより深い分断に引きずり込まれることとなった。

   今や米国では経済も文化も科学も、およそ重要な課題はすべて政治的な対立の観点から論じられることになってきており、まともな議論は生まれにくい状況である。

   中国では対照的な動きとなった。もともと新型コロナウイルスは2019年末に武漢で新種の肺炎が報告されたことに端を発したわけで、中国は20年初、世界で最も危惧された国であった。

   しかし、その後中国の感染者・死者はともに急激に減少した。そのため成功例と言われることが多い。確かに日本などと同様に感染率が欧米よりずっと低いことは間違いないと思うが、新規感染者がほとんどゼロなどというのは到底信用できる数字ではない。習近平の独裁体制がさらに強化されている中で、公表されたデータを鵜呑みにするのは危険だ。

ギリギリで決着 英国とEUの自由貿易協定に明るさ

   欧州については、国ごとにコロナの被害の状況が微妙に異なり、対策もそれぞれであったが、結局のところ、特段上手に抑え込めた国はなく、米国と比べて五十歩百歩の状況だ。明るいニュースとしては、経済面では年末にEU(欧州連合)とイギリスとの自由貿易協定が結ばれたことと、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まったことが挙げられる。

   途上国はコロナで最も打撃を受けた地域であったといえる。先進国の経済が縮小して、途上国との交易が途絶えたことで、もともと規模が小さく体力に劣る途上国の経済が特に厳しい状況に置かれてしまった。

誰もいない、シャッターが降りたままの地下街
誰もいない、シャッターが降りたままの地下街

   では、日本はどうだったか。日本のコロナ問題が世界で注目されるようになったのが、ダイヤモンド・プリンセス船が横浜港に寄港した2020年2月3日であった。それについて世界から散々批判されたことも記憶に新しいところだが、それから早や11か月が経過した。

   日本はロックダウンせず、PCR検査も一定の条件に合致した場合のみで行う。その一方で「GoToトラベル」や「GoToイート」キャンペーンのような外出奨励策も合わせて行なう、という独自の手法を採った。これについては批判の声も高かった。

   結果はどうだったか――。日本は12月28日時点でコロナによる死亡者の合計が3105人である。米国では一日にコロナでそれくらい亡くなっているし、英国、フランス、イタリア、ドイツなどではそれぞれ数万人が亡くなっており、それらに比べると日本の健康被害ははるかに少ない。

   特に超過死亡数(平年に比べて増減した死亡者の数)がマイナスで推移していることが目を惹く。これは、コロナで(高齢者・基礎疾患がある人がほとんどだが)数千人の死亡者が出る一方で、肺炎やインフルエンザなどによる死亡者数が一万人以上減少したことが主因であると思われる。

   つまり、2020年は通常の年よりも人々の命が守られた年であったということだ。もちろん、一人ひとりにとっては深刻な問題であることは言うまでもないが、危険な病気が他にも多数ある中で、新型コロナウイルスが圧倒的に怖い、というような対応を続けることには疑問がある。

日本の実質経済成長率はマイナス5.3%

   英エコノミスト誌は「日本政府はコロナをほとんどの国より良く理解していた」と題する記事(2020年12月12日号)を掲載したが、その中で「日本は厳格なロックダウンとすべて自由という両極端のあいだを揺れ動くのではなく、きめ細かにターゲットを決めてコントロールした」と書かれている。

   もしも欧米の主要国が今の日本の感染の状況になったら、間違いなく終結宣言を出すであろう。そのくらいの被害状況に抑えてきた。

   なぜ日本で感染が少ないかの要因はわかっていないが、国民にとっては幸運な状況である。まだこれから先どのように展開して行くかわからないので、引き続き注意深く様子を見ていく必要があることは言うまでもない。

   一方で、日本はコロナによって経済的なダメージは相当なものを負ってしまった。OECDによると日本の経済成長率の予測はマイナス5.3%で、中国の(プラス)1.8%や韓国のマイナス1.1%より悪いのはもちろん、アジア諸国よりずうっとコロナの被害が大きいはずの米国のマイナス3.7%や世界平均のマイナス4.2%よりも悪い=下表参照

OECDによる実質経済成長率予測
OECDによる実質経済成長率予測

   つまり、日本は感染者数が比較的少ないのに、経済活動にそれを生かせていないということである。

   2008年のリーマンショックの時もそうであったが、自分の国自体にはそんなに問題はないはずなのに、世界の波にのまれて経済に大打撃を受けてしまう、という図式だ。日本は元々潜在成長率が低めなので成長率が低めに出るのはある程度仕方のないところもあるが、ITが未発達で業務のリモートワーク化が今一つ進んでいない、グーグルやアマゾンのような世界的なIT企業がない、中国の発展の波に乗れていない、といったことが合わさってこのような数字になったものと思われる。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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