バイデン次期米大統領の「大きな政府」は日本にも恩恵 ハードルは「ねじれ議会」?

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   2021年1月20日、ジョー・バイデン氏が米国の新しい大統領に、正式に就任する。

   オバマ元大統領(2009~2017年)以来の民主党政権で、新型コロナウイルス対策をはじめ、経済運営、環境・インフラ投資、医療制度改革などさまざまな分野でトランプ現政権から大幅な政策転換が見込まれている。

   バイデン氏はどのような舵取りで政権を運営し、日本への影響はどうなるのか。日本経済には概ねプラスに働きそう、と楽観的な見方が少なくないが......。シンクタンクなどから発表されている予測レポートから、探ってみた。

  • 2020年12月22日、新型コロナウイルスのワクチン接種をツイッターで報告したバイデン次期米大統領
    2020年12月22日、新型コロナウイルスのワクチン接種をツイッターで報告したバイデン次期米大統領
  • 2020年12月22日、新型コロナウイルスのワクチン接種をツイッターで報告したバイデン次期米大統領

任期4年で2兆ドル投資

   民主党の伝統的な政策は「大きな政府」。シンクタンクのレポートは、バイデン氏の選挙公約を分析。同氏は、党のこの伝統に沿い、トランプ大統領とは対照的にさまざまな面で財政措置を強化することになろう、とみている。

   現政権から大きく転換するとみられるのはヘルスケアの分野。トランプ政権では、オバマ政権による医療保険の加入義務に反対し、未加入に対する課税を廃止するなど、オバマケアといわれる皆保険制度を目の敵にした。

   これに対して、オバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏は、税制優遇措置などを通じてオバマケア拡充に転じる。

   バイデン氏が医療保険制度の拡充で財源として見込んでいるのは増税。「小さな政府」を標榜する共和党のトランプ政権との違いが際立つ。

   大和総研の2020年11月12付のレポート(バイデン政権が日本に与える影響)によると、バイデン氏はトランプ政権が引き下げた法人税率(35% → 21%)を再び引き上げる(21% → 28%)ことを提案。また、個人所得税の最高税率の引き上げや税控除の縮小、キャピタルゲイン課税の強化など富裕層に対する増税を掲げていた。

   大和総研のレポートによると、バイデン氏とトランプ大統領はともにインフラなどへの投資では積極姿勢で、同じようにみえるが、その内容となると対照的。トランプ政権が「小さな政府」に徹して補助金により民間投資を引き出すことを重視したのに対し、バイデン氏の公約では、政府の資金によって大規模な投資を行うとしている。任期の4年間に予定している投資額は2兆ドル。専門家やウオッチャーらが米国の成長の元とみる政策だ。

   「バイデン氏は、積極的な財政出動を掲げて、4年間で2兆ドルの拡大を表明している。米経済が以前のように2%成長の軌道に戻れば、それだけで恩恵は大きい」。第一生命研究所の首席エコノミストの熊野英生氏が、2020年11月10日付レポートで、こう述べている。

「2000年以降のデータで推計すると、米国が2%成長すると、日本の実質輸出が4.0%伸びる結果になっている。輸出増加は、設備投資増加などに波及して、日本経済全体では実質GDPを0.8%ポイントほど嵩上げすると計算できる」

   2兆ドルの投資計画はまた、「巨額投資による雇用創出を通じて、経済復興にもつなげることも目指している」(野村総研「金融ITフォーカス2020年12月号」)。日本経済にもさらに好影響があるとみられる。

議会の「ねじれ」つまずく可能性

新しい住人を待つホワイトハウス
新しい住人を待つホワイトハウス

   バイデン氏が構想する政策をめぐって、シンクタンクのレポートが不確実性の要因として挙げるのが、議会のねじれの可能性だ。大統領選と同時に行われた連邦議会選で、バイデン氏の民主党は下院で過半数を維持したが、上院(定数100)では、共和党50、民主党48となり、ジョージア州の2議席が2021年1月5日の決戦投票に持ち越された。

   伊藤忠総研は2020年11月27日付のレポートで、上院で共和党が多数を占める「ねじれ議会」になった場合のバイデン氏の公約実現可能性を考察。それによると、法人税の引き上げや、新たな法人課税、多くの環境政策で実現困難になるとみている。なかには、大統領権限で可能になるものもあるが、数は多くないという。

   上院で共和党が多数派となった場合「バイデン氏が掲げる政策のうち、共和党が強硬に反対しているオバマケアの拡充や、トランプ政権による最大の成果と言っても過言ではない税制改革の巻き戻しに議会共和党が賛成するとは考え難い」というのが専門家らの一致した見方だ。

   大和総研のレポートによると、ねじれ議会となり、ヘルスケアや税制改革が実現されないと想定すると、経済へのプラス効果は大幅に縮小する見込み。「『バイデン+ねじれ議会』シナリオ」では、日本では、2022年から25年の効果は、平均で年0.5%程度のプラスにとどまる。

   議会にねじれがなく、バイデン氏の政策がすべて実現すれば、2022年には1.29%増、23年には2%増の効果が見込まれる。

   日本への反映が2022年からになるのは「主に輸出の増加が企業収益や雇用、家計所得に波及し、さらに個人消費や設備投資などの国内需要を押し上げるまでにタイムラグが発生すると見込まれるため」だ。

   上院で共和党が多数派となるのは、米国企業にとっては歓迎のよう。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)は2020年12月10日付のレポートで、フォーチュン1000企業(米国の売上高上位1000社)を中心に、米国企業の経営者らを対象に実施した大統領選をめぐるパルスサーベイ(意識調査)の結果を公表。それによると、企業にとっては政策リスクである法人税引き上げなどの内容が、両党拮抗する上院の存在によって緩和の見込みが高まり、安心材料になっているという。

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