「ポストコロナ」に踏み出す2021年に向けて、JR東日本と西武ホールディングス(HD)はその先陣を切って、コロナ禍がもたらした人々の価値観や生活様式の変容や、それらによって生まれるあらたなニーズの対応することを目的に、「両社が持つ有形無形の資産を組み合わせた包括的な連携」を行う。2020年12月23日の発表。
JR東日本の深沢祐二社長と西武HDの後藤高志社長が顔をそろえ、東京都内のホテルで会見。連携に向けた強い意欲を示した。
新たな「ワーケーション」の過ごし方を提案
JR東日本と西武HDは、包括的連携により「これまでにない新しいライフスタイルを生み出すとともに、この取組みを首都圏から地方へとつなげ、移動の活性化や関係人口の増加を図り、地方創生につなげていく」としている。
JR東日本の深沢祐二社長によると、同社は以前から東京―軽井沢間で、西武HDの施設利用とセットになった新幹線利用プランを販売するなどの実績があり、今回の連携に至ったという。
連携の最初の取り組みの柱は、「WORK(ワーク)」(仕事)と「VACATION(バケーション)」の、新たな「ワーケーション」の提案だ。リゾートなどでのテレワークを活用して、働きながら休暇をとる過ごし方とされ、コロナ禍の中での新ライフスタイルとして話題になっている。
そんなワーケーションだが、両社は「十分なサービスを提供できていないことが課題」と考え、「『利用者』と『企業』だけでなく、『地域』も含めた三方の目的を達成する新たなワーケーションのスタイルを創出する」という。
当初用意した「新機軸」のワーケーションは2つ。法人向け「ボランティアワーケーション」と個人向け「移住トライアルプラン」だ。
ボランティアワーケーションは、ボランティア活動を取り入れたワーケーションの提案で、ワーケーション時の「仕事」を「ボランティア活動」にすることで地域社会への貢献につながり、企業のブランド向上に寄与する。
たとえば、西武HDの軽井沢プリンスホテルに宿泊し、いちご農園での農業体験などのワーケーションがそれだ。
移住トライアルプランは、都市圏の住人で将来的に地方への移住を検討している人が対象。西武HDのプリンスホテルでの宿泊と、JR東日本の新幹線往復チケットやレンタカーがセットになった移住トライアルプランが、その一つ。
新幹線利用では、えきねっと(JR東日本のインターネットを使った指定券予約などのサービス)ポイント還元によるコスト低減や、ホテルでは体験アクテビティや「移住アドバイザー」によるカウンセリングがセットになる。
ボランティアワーケーション、移住トライアルプランとも、2021年2月1日からのスタートを設定している。
駅でテレワークを推進
ワーケーションとならぶ連携施策のもう一つの柱は、時間や場所にとらわれない働き方のサポートだ。鉄道会社であることの特性を生かして、駅でのシェアオフィス利用を促進する。
まずはJR東日本のシェアオフィス「STATION WORK(ステーションワーク)」の拡大を図り「自分らしく働ける環境整備」に努めるという。
STATION WORKは、JR東が駅や系列のホテルメッツなどでブース型「STATION BOOTH」を中心に約50か所のネットワーク展開を持つ。今回の連携で2021年から、首都圏や長野県のプリンスホテル6館でSTATION WORK会員を対象にテレワークプランを提供する。
こうした提携拠点を含め、2023年度で1000か所の展開を目指している。また、JR東日本の沿線に展開している「STATION BOOTH」を西武鉄道の沿線駅にも展開することを検討中だ。
JR東日本と西武HD、両社の自慢のサービスを組み合わせた「付加価値商品の提案」などを用意する。JR東日本の新幹線に用意されている、グリーン車の上位席「グランクラス」とプリンスホテルの特別な客室を組み合わせたラグジュアリー志向の旅行プランの発売を予定している。
コロナ禍は、両社にとっても暗い影を落としている。JR東日本が2020年10月28日に発表した20年4~9月期の連結業績は、売上高に当たる営業収益が48.2%減の7872億円、営業損益は2952億円の赤字(前年同期は2965億円の黒字)。西武HDの20年4~9月期の連結決算(11月12日発表)は、売上高にあたる営業収益が47%減の1548億円、営業損益は306億円の赤字(前年同期は437億円の黒字)だった。